
日本への外国人観光客が増えたことや、東京オリンピックに向けてのタクシー需要は増えていく一方です。売り上げを伸ばしているタクシー会社も多く見受けられるのですが、その反面、新しい車両の購入や、配車アプリへの対応としてのIT化への資金投資など課題も山積しています。
今回は、今注目されている「タクシー会社のM&A」での「事業譲渡」について事例も交えながらご説明していきます。
目次
タクシー会社が事業譲渡の道を選ぶメリットとは
経営のプレッシャーから解放される
タクシー業界にも配車アプリなどの普及によりIT化が急速に進んでいます。
この他にもタクシー会社を経営している方々には様々なプレッシャーがあります。
- 後継者がいない
- 新しく車両やシステムを完備するには資金繰りが心配
- 自動運転など自動車業界の技術革新についていけない
- 安定した経営のために大手の傘下に入りたい・・・
- 事業は上がり調子だけど、自分の時間が欲しい。リタイアしたい。
などなど、経営者の悩みは尽きませんよね。
これらのプレッシャーから「事業譲渡」することで解決できます。
また、忘れてはならないのは、経営者ならば、会社の借入金に対して連帯保証人になっている場合があります。
これも事業譲渡を行うことで、個人保証を外すことも可能です。
ここで少し「株式譲渡」の場合と、「事業譲渡」の場合を比べてみたいと思います。
「株式譲渡」で株式を全部譲渡して、3000万円の代金が入ってきたとします
しかし、会社の借入金が6000万円あったとしたら、株式譲渡では譲渡できるのは株式だけですから、個人保証もそのままです。もし新しい経営者が借入金を返済できなくなったら、連帯保証人ならばその6000万円を返済する義務があるのです。
譲渡しても気が休まることがありません。
しかし、事業譲渡の場合は、個人保証を外すことを譲渡の条件にしておけば、もう個人保証のことで悩むことはなく、事業譲渡の代金も入ってくるのです。
後継者問題の解決
さきほどの項目でもご紹介しましたが「後継者不在」問題も事業譲渡で解決できます。
子供に同じ苦労をさせるのは、ちょっと・・・と悩んでいる経営者はたくさんいます。
だからと言って従業員の中から該当する人材がいない場合も多いです。
事業譲渡の特質である、譲渡できる範囲が一部でも全部でも可能なので、事業全部を譲渡することもできます。
これで先程申し上げた「経営からのプレッシャー問題」と「後継者不在問題」が同時に解決できるわけです。
事業や店舗の拡大
これからも増え続ける観光客に対応するために事業を拡大するためにも事業譲渡はとても役立ちます。
ずっと経営してきたタクシー会社の拠点を増やすだけですから、各種の手続き、登録も事業所を追加するだけで対応できます。他業種から一から始めるよりも、時間、お金ともに少なく事業拡大が図れます。
また、その反面、すでに数か所の事業所を経営している会社では、売り上げが上がっている拠点と、売上げが下がっている拠点があるとします。このまま売上げが下がり続ける拠点を続けることは事業の将来にも良くないと判断したら、売り上げの減っている拠点だけを譲渡することも可能です。
譲渡すれば、それ以上経費だけが増える状態もなくなりますから、売り上げの良い拠点だけを効率よく経営できます。
従業員の雇用安定や待遇改善
経営者が変わることで一番心配なのが、従業員の雇用問題です。
もし、会社を廃業なんてことになると従業員はすべて解雇することになります。
しかし、事業譲渡となると、新しい経営者へそのまま雇用関係が継続することが可能です。
資金力があり、従業員の雇用を継続できる買い手に譲渡することで、雇用問題は解決できます。
また、買い手側も、経験のある従業員を雇えますので、人手不足問題が解決できるのです。
この事業譲渡というやり方は、売り手側、買い手側、そして従業員のすべてにとってメリットがあります。
経営者は、事業譲渡するときには、従業員の雇用と待遇に関してきっちり条件に盛り込んでおくことです。
タクシー業界では、運転手が不足している状態です。買い手側は、この運転手も込みでタクシー会社の事業譲受を検討しますので、新しい経営者になって従業員の待遇が改善できるように条件に入れておいてください。
譲渡による現金獲得
1.1.の項目でもお話ましたが、事業譲渡で一部でも全部でも譲渡した場合は、現金が入ってきます。
個人保証を外すことを条件にしておくと、もう借入金返済の心配がなくなり、現金が入ってくるのです。
事業を廃業してしまう場合と比べても、税金面、経費面でもかなり安上がりとなります。
タクシー会社での資産と言えば、「車両」となりますが、廃業してしまって「中古車」として売却する場合と、事業譲渡して「営業車」で譲渡する場合では、買い取り価格は全く違ってきます。
タクシーとして売却すると、東京23区において一台あたり600万円程度で取引されているケースもあるのです。
これはやり方によって、入金額が全く違ってくるということですよね。
大切に育てた事業ですから、なるべく高額で譲渡する必要があります。
この現金が獲得できるというのは、事業譲渡の大きなメリットと言えます。
タクシー会社の事業譲渡の事例
《タクシー会社の事業価値とは?》
これは、ずばり「タクシードライバー」となります。
タクシーを運転するドライバーさんがいなければ話になりませんよね。
タクシー会社を譲渡する場合、この運転手さん込みの値段となります。
《海外ではライドシェアアプリが定着しているけど》
外国から日本へくる観光客からよく聞く話が、「日本はライドシェアアプリが定着してなくて不便」という言葉です。
これは、日本とアメリカなどのタクシードライバーとの雇用形態の違いから、日本ではライドシェアアプリが定着しづらいのです。
日本では、ほとんどのタクシー会社では、運転手を社員として雇用していますが、アメリカなどでは、タクシー会社は運転手を社員ではなく、個人契約にしていて、タクシーを貸与しているだけなのです。フリーのドライバーという形態をとっています。
ですから、アプリを使って乗車予約するシステムはフリーのドライバーには効率的ですが、正社員だとこのアプリで予約されることにあまりうまみを感じないのです。
また、日本では防犯上でも、警察、国土交通省など官庁関係が反対していますから、このアプリでのタクシー予約システムは普及しづらいという背景があります。
《安心して乗車できるのが日本のタクシー》
身元がしっかりした社員であるドライバーが運転しているところが、日本のタクシーの魅力ではないでしょうか。
きっちりとした研修を行っているタクシー会社の運転手さんのタクシーに乗ると、本当に対応が良いですよね。
外国人観光客も、この素晴らしいタクシードライバーの対応には評価が高いのです。観光地などでは、いろんな穴場に連れて行ってもらっていい思い出になったという方もたくさんいます。
これは、外国人も日本人も同じ体験をした方は多いと思います。地元のおいしい店を教えてもらった経験などありますよね。
《タクシードライバーの定着率が高い会社ほど高額で譲渡されている》
日本のタクシードライバーは社員として雇用している場合が多いとお話しましたが、やはり売り上げは給料に反映されますから、乗車率が多い地域や乗客が多いタクシー会社に転々と渡るドライバーも多いのです。
転職が多い業界と言えます。このタクシー運転手の定着率をどうやって高くするかが、タクシー業界の永遠の課題でもあります。
定着率をよくしようと給料をたかくしても、乗車料金以上のお給料をドライバーに払っていては、会社の経営が破綻してしまいます。
お客さんが乗車したくなるタクシーを育てることで、自然と乗車率が上がり、ドライバーの歩合も上がってくるのですから、
- ドライバーの研修制度(マナー、英会話、地理の知識など)を完備する
- タクシーの設備を定期的にグレードアップする
などを充実させると、タクシーを乗るなら○○会社にしようとなって、予約してくれるようになります。
道でタクシーを捕まえるときも、○○会社のマークが着いたものしか乗りたくないと思われるようになるでしょう。
気に入ったタクシー会社ならチケットを購入して、いつも予約して乗っている方も多数いらっしゃいます。
優秀なドライバーを育てる、乗り心地の良いタクシーを完備することは、タクシー会社にとってぐんと事業価値に上がることにもつながっていきます。
タクシー会社の事業譲渡の事例から見る注意点
営業区域やドライバー稼働率を数値として見せるべき
タクシー会社には運行管理者がかならず常駐しています。
ドライバーの勤務状況、稼働率をチェックしています。この運行管理表を確認することで営業区域ごとの稼働率がわかります。
これは運行管理者だけでなく、経営者も定期的にチェックする必要があります。
営業区域で、どの時間帯に、どのドライバーで乗車率が高いのかを細かく把握しておくことをお勧めします
なぜなら、そのデータはタクシー会社によっては大きな「事業価値」であり、高い値段で売れます。
譲渡先にとってのメリットを明確にする
3.1.でもお話した、営業区域での稼働率です。これは事業価値になるとお話しています。
買い手側がこの営業区域での稼働率が低い場合、譲渡された事業所が高い稼働率であった場合は、売り上げアップにつながります。
また、同じタクシー会社でなくても、アルコールを提供する飲食店や、託児所、学習塾などでも送迎車を利用したいときにもタクシー会社の事業譲渡は経営戦略として使えます。
運転手の離職率が多くて困っていた場合、独自の雇用形態、福利厚生を完備している場合もその雇用状況が「事業価値」になって、譲渡先のメリットに直結します。
長い時間が掛かる場合もある
M&Aは様々なスキームがあり、その会社にとって一番合うスキームを選択できるところが強みです。
今回の「事業譲渡」の場合は、事業の一部でも譲渡できるところがシンプルなスキームではあるのですが、やはり基本同意(買い手、売り手がお互いに同意)が終わった後に来る、デューデリジェンスという買収監査が待ち受けています。
意外に時間がかかります。事業譲渡の最後の山場と言われています。
下記の書類を用意する必要があります。
- 監査基準日現在の試算表を会計事務所に準備してもらう
- 試算表に関して内訳明細書も準備する
- 定期預金に関しては、銀行に残高証明書を作成してもらう(銀行によって日数を要しますので事前に依頼しておいてください)
- 土地建物など資産に関する権利書を準備しておく
- 株主総会、役員会議事録はすぐ見られるようにしておく
- 総勘定元帳、補助元帳などもすぐに見られるよう準備する
- 生命保険も監査基準日の解約返戻金を生命保険会社に計上してもらう
- 小切手、手形(現物)と手形帳も照合して説明できるようしておく
- 大切な車両関係の書類もすぐわかるようにファイリングしておく
譲渡先にとっては、全て必要な書類で、譲渡先側から審査する人間が来て、一つ一つチェックしていきます。
日ごろから、これらの書類をすぐに用意できるように準備しておく必要があります。
これらの書類をいつも経営者がチェックしておくことは、事業価値を上げることにもつながります。
自分たちが長年経営してきた事業を良い形で残すためにも資料作成は大切な経営戦略の一つです。
事業譲渡は人対人
タクシー会社の事業価値は、タクシードライバーとお話しました。
大切に育ててきたタクシードライバーですから、譲渡後も待遇面を考慮して雇用してもらうように譲渡条件に盛り込んでおく必要がありますよね。
タクシードライバーも大切ですが、いつもそのタクシー会社を選んでくれる顧客の存在も大切な事業価値であることも忘れないでください。
高齢者の方など、タクシーのみが移動手段という方もいらっしゃいます。これからの日本は高齢化社会へと加速していきます。
タクシーを利用する方が増え続けていき、そのほとんどが高齢者になっていくことになります。
ご高齢で利用する方は、いつも決めているドライバーさんがいらっしゃる場合が多く、そしてタクシー会社は同じところを使っている方がほとんどなのです。
これは大切なリピーター客であり、事業価値です。譲渡先が決まり、経営者が変わったとたんに顧客が離れていかないようにドライバーの研修、車両のメンテナンスに力を入れていく必要があります。
タクシー会社の事業譲渡を行うなら
まず、タクシー会社のM&Aに精通したM&A仲介業者を選ぶ必要があります。
そして、次の項目にも注意していただきたいのです。
- 完全成功報酬制であること
- 業界に精通したコンサルタントがいること
- 中小企業のM&Aの実績があるところ
最後の、中小企業のM&A実績ですが、銀行や証券会社は大手企業のM&Aには詳しいのですが、中小企業、個人経営者のM&Aに取り組んだ実績がないことが多いのです。
規模は小さくても、大手企業と比べえてもM&Aの流れは変わりませんし、書類準備も多岐にわたります。
意外にこの事前準備に時間がかかります。
そのような作業に関して経験のある仲介業者を探すことが事業譲渡成功の秘訣となります。
タクシーの事業譲渡について相談するなら、M&Aコンサルティング社がおすすめです。
自分が手塩に育てた事業を売るとなると、なかなか最初の一歩が踏み出しにくいですよね。
そこで、匿名で相談、簡易査定ができるようになっています。
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