
少子高齢化、度重なる診療方針の改定による診療報酬の減少、医師不足・偏在問題など日本の医療業界は混迷の時代です。
病院・クリニックの経営者達は地域医療を支えるという重責、経営難、後継者不在などで頭を悩ませ、引退や閉院を考える医師も増えてきています。
しかし、そのような病院を買い取り新しく再生させるため事業譲渡という道を選択する医師・法人が増えています。
目次
病院・クリニックが事業譲渡の道を選ぶメリットとは
病院・クリニックの事業譲渡には譲渡側、買収側の双方に大きなメリットがあります。とくに譲渡側の抱える様々な問題を解決できるとされています。
それでは、譲渡側が病院・クリニックを売却することで得られるメリットをご紹介します。
経営のプレッシャーから解放される
日本のほとんどの病院は苦しい財務状況の中、診療を続けています。
2年に1度の診療報酬の改定、都市部と地方での患者数に格差があるにも関わらず、一律の診療報酬点数などが原因のひとつとされています。
大手名門病院ですら赤字になる時代にもかかわらず、医療ニーズは増える一方です。
診療行為だけでなく一般の企業的な経営が医院にも求められ、医院を経営する医師には負担が重くのしかかっています。
そこで、経営の重責から解放されるために病院・クリニックを事業譲渡する事例もあります。
設備投資などのための借り入れの個人保証・担保提供のプレッシャーからも解放さます。
その後のキャリアとして、勤務医として経営から離れ診療行為に専念する方も少なくありません。
経営収支が赤字の病院・クリニックでも買い手からすれば、診療科目変更などで採算があうと判断されれば買収は行われます。
赤字経営だとしても事業譲渡を検討する価値は十分にあります。
後継者問題の解決
少子高齢化が原因の後継者不在問題は事業譲渡が大きな解決策になると言われています。
病院・クリニックの後継者の育成にはおよそ10年を必要とします。
しかし、経営問題や日々の診療で後継者育成が後回しになってしまいます。
後継者育成ができていないのはまだ良い方で、そもそも承継者が決まっていない病院・クリニックがほとんどとされています。
医師不足・偏在の問題は地方都市での医師不足を加速させ、地方の高齢者が必要な医療を受けられないという問題につながっています。
内部昇格で副院長が経営に入る手段もありますが、老朽化した建物・設備、負債を引き継ぐことになるので、進んで院長になる方は少ないようです。
後継者不在となれば病院・クリニックは閉院となってしまい取り壊すだけですが、事業譲渡を行うことで、後継者を募ることができます。
新規開業に比べて開業のために必要な資金が少なくすみ、勤務医から開業を目指す人がこの手段で開業することが増えています。
また、買収側は新規で開業するよりもそれまでの病院・クリニックの実績をもとに金融機関から融資を受けやすくなるといったメリットもあります。
医療法人が事業譲渡した例ですが、最近では株式会社等の営利法人が、理事長たるドクターを雇い医療法人を経営する事も増えてきました。
後継者不在で事業譲渡を検討する際は、「身売り」といったネガティブな思考に陥りがちです。
しかし、地域社会での病院廃業の影響を考慮すると、医院の事業譲渡は地域医療を継続させる手段になります。
決して後ろ向きの話ではなく、前向きな経営戦略といえます。
事業の拡大
事業譲渡が行われる目的は経営難や後継者不在のようなマイナス要因だけではありません。
事業拡大を目的として病院・クリニックを買収するケースも少なくありません。
特に大手医療法人が事業規模を拡大する際によく使われています。
目的は主に病床(ベッド)数の確保です。病床数に応じて診療報酬が上乗せされるので、病床数が多いほうが経営的には有利です。
病床を新規で設置する際には都道府県知事に届け出が必要で、地域ごとに病床数は決まっているため、申請をしても設置許可は簡単には下りません。
都市部になると病床がすでに過剰傾向のため病床新設許可はほとんど下りないという現実です。
そのため、大手医療法人は一定数病床を持っている病院を買収、買収側医療法人の傘下とし事業規模を拡大する経営戦略を行っています。
従業員の雇用安定や待遇改善
集患がうまくいかず、経営が行き詰まってくると医師・看護師、従業員・スタッフの継続雇用が難しくなってきます。
そこで事業譲渡で病院・クリニックを売却、買収側は経営を再建します。
その際、地域の患者さんと顔なじみのスタッフがいたほうが患者さんは安心するので、それまでのスタッフに継続雇用を求める事が多いです。
さらに、中小病院は医師、看護師、スタッフ個々人の実力に依存して成り立っているケースが少なくありません。
専門的な知識・技術をもっている優秀な人材に辞められてしまう事は、買収側にとっては人的資産を失うということです。
これでは買収側のメリットが少なくなってしまいます。
そのため、買収側は従業員の継続雇用交渉の際に給与形態、勤務形態の優遇措置を図ることがあります。
これは売却側にとっては、事業譲渡によってこれまで貢献してくれた従業員の待遇改善につながります。
譲渡による現金獲得
「経営難」、「後継者不在」、「事業拡大」、「医業からの引退」、廃院を考える理由は様々です。
土地・建物、医療機器の償却・廃棄にはさらに費用が必要となります。
それならば事業譲渡で病院・クリニックを売却してまとまった資金を手に入れた方が、その後の人生設計もしやすいはずです。
土地・建物は売らずに不動産として保有し、賃貸として買収先に賃貸料を払ってもらうという条件で契約もできます。医療機器・備品も査定の上、買い取ってもらうことが可能です。
病院・クリニックの経営が上手くいっていないからといって買い手が現れない訳ではありません。
実は買い手からすればその病院・クリニックは金の卵なのかもしれません。
廃院にするより、事業譲渡を検討する価値は十分にあります。
ただし、事業譲渡で売却したことによって得た資金には税金がかかります。
売却で損をしてしまわないように、税理士、医療系コンサルタントなど専門家に相談することをおすすめします。
病院・クリニックの事業譲渡の事例
事業譲渡をすることで得られるメリットをご紹介しました。
ここからは、病院・クリニックの事業譲渡の実例から譲渡側、買収側のメリットを見ていきましょう。
【①医療法人同士での事業譲渡】
医療法人A病院は病床数200以下の中小規模の病院です。
稼働率の低さなどから長らく赤字経営が続き、施設・設備も老朽化しており、改修の必要性がありました。
それでも、地域医療のために理事長は高齢ながらも診察を続けていましたが、体力的に限界を感じ引退し事業譲渡する決意をします。
連携している医療法人に合併、買収を依頼しましたが、財務状況を理由に交渉できませんでした。
そこで医療系の事業譲渡専門家に相談し、譲渡先を募ります。
すると、すぐに大手医療法人Bが買収を申し出てきました。
A法人の理事長が当初希望していた合併の方向で条件をまとめることができました。
医療法人B病院は病床数400以上の大病院で、経営は順調で常に満床という状態です。
そのような状況から、急患の受け入れができないという問題を抱えています。
そこで近隣の病院を買取り、病床を増やしたいと考えていました。
A病院は施設の老朽化から事業譲渡は難航するのではと思っていました。
しかし、医療法人BはA病院の改修の際に、病棟の一部をリハビリ病棟へ改修、医療機能連携を強めます。
デメリットをメリットにうまく転換し廃院を免れ、地域の医療体制は継続されました。
【②診療所同士の事業譲渡】
C透析クリニックの院長はまだ若く、クリニックの運営は現状順調でしたが、事業承継候補のご子息はまだ幼く、従業員の雇用維持にも不安を抱えており、将来的なクリニック経営には不安を抱いていました。
しかし、地域に継続的な医療提供をするという責任もあるため、事業譲渡を検討します。
そこで面識があり同じく透析を専門としているD医療法人の理事長と交渉をする事になりました。
以前から親交があり互いに信頼関係にあったので、D医療法人傘下への事業譲渡がきまります。
D医療法人のクリニックは安定した財務基盤こそ築けていましたが、将来的に患者数減少が見込まれるという懸念があり、長期的に患者を集めることが課題でした。
そこで、Cクリニックの地域まで医療圏を拡大できたことで、さらなる集患体制を築くことが可能になりました。
譲渡側は経済的なメリットを手に入れ、診療に集中できる体制を作ることができました。
条件交渉等の仲介は医療系M&Aの専門家に依頼しました。
大きな金額が動きますので、これまでの信頼関係を崩すことだけは避けたかった為です。
専門家が地域での将来性などをシュミレーションし双方のメリットと譲渡金額を明確化し、その金額をもとに諸条件の整理ができたので議論が具体的となりました。
結果的にスムーズに交渉が進み、双方にとって大いにメリットのある事業譲渡となりました。
病院・クリニックの事業譲渡の事例から見る注意点
①の事例では、デメリットと思われていたものが買収側にとってのメリットとして新たな価値を作り出しました。
②の事例は、強みが合わさり双方に大きなメリットとなりました。
2つの事例からは「経営者の進退」「明確化されたメリット」がポイントであることがわかります。その他の事業譲渡の注意点も事例から読み取っていきましょう。
治療もしている経営者は自身の引退の影響を考える
①の事例の医師のように診療に携わっている経営者は、早い時期に経営理念、経営方針を確立し後継者を育てる準備が必要であったといえます。
一般的に後継者は10年かけて育成するのが理想といわれます。
しかしながら、経営をしながら後継者の育成はとても難しいというのが現実です。
世代間の医療方針に対する違いからくる対立など、身内での紛争が起きてしまうこともあります。
病院は非営利団体であり、目的は医療の提供です。
自身の進退が原因で地域医療に悪影響を与えてはなりません。
それならば、事業譲渡で外部の医師で自身の医療方針を引き継いでくれる、まだは伸ばしてくれる人材・法人に譲渡を考えたほうが地域の患者さんへの影響は少ないはずです。
譲渡先にとってのメリットを明確にする
②の事例では専門家のアドバイスによってメリットを明確にしたことで、双方の強みを活かす事のできる事業譲渡ができました。
クリニック・スタッフの技術・専門性、地域性、これらが将来生み出す価値を明確にしたことで契約までスムーズに進みました。
あらかじめ耕されていれる土地は作物が育ちやすいように、買収側は種をまけばすぐに利益という実りを収穫できるという事です。
長い時間が掛かる場合もある
①の事例では一度面識のある医療法人に断られ、専門家に事業譲渡を相談して売却に成功しました。
病院・クリニックは専門家に依頼し買収先募集を出しても、1年以上買い取り希望が現れないこともよくあります。
売却する病院に価値がないからではなく、買い手のタイミングなどが問題の場合も多く、諦めずにじっくり待つ必要があります。
ただ、待つだけではなく、②の事例のように専門家にアドバイスを求め医院の強みを洗い出し、さらに磨きをかけておけば売却交渉もうまくいきます。
第三者の、それも事業譲渡の専門家の意見は大変貴重です。
売却交渉を早期に完結したい場合は、早いうちから専門家に入ってもらう事が最善策です。
事業譲渡は人対人
②の事例は以前から顔見知りのクリニックでの事業譲渡でした。
もともと信頼関係が構築できていた事が幸いし、お互いに多大なメリットのある事業譲渡になりました。
このように、事業譲渡を成功させる重要なポイントは譲渡・譲受先の信頼関係にあるといえます。
今まで経営してきた病院を任せるにあたって、信頼できる人材に医院を引き継いでもらいたいというのは医師にとって当然の考えでしょう。
この双方の信頼関係は事業譲渡においてとても重要です。
事業譲渡・M&Aでは秘密保持契約を結び、互いの情報を開示し財務情報を渡し、売買を検討するプロセスがあります。
「事業」、「財務」、「法務」、「人事」、「不動産」、「紛争関係」、「行政指導」、病院経営に関わるありとあらゆる情報を開示します。
これら調査には双方に膨大な時間と労力を要します。
そのため、隠し事をして相手の不利益を発生させてしまう、ましてや引き渡し後に発覚し行政指導などになってしまうと患者さんに迷惑がかかってしまいます。
そうならないためにも、お互い信頼関係を構築し、目先の利益だけでなく医院の将来を鑑みた事業譲渡の交渉が必要です。
病院・クリニックの事業譲渡を行うなら
医療関係の事業譲渡は特殊性、専門性、そして一定の経験が必要なので、一般企業と比較すると、とても難しいといわれています。
ですがその成約率はとても高く、病院・クリニックの新規開業より事業譲渡・M&Aの件数が上回るほどです。
これらの成功事例のほとんどは経験をつんだ専門家の力によるものです。
「税理士」、「会計士」、「弁護士」、「医療系M&Aコンサルタント」、それぞれにスペシャリストを立てるのが理想といわれています。
病院・クリニックを希望の条件で事業譲渡・M&Aを成功させたいのであれば早期に専門家に相談するのが大事なポイントです。
東京での相談先として、当サイトではM&Aコンサルティング社をおすすめします。
医療系M&Aコンサルタントとしてのノウハウを多く持っており、様々な悩みにも対応してもらえます。
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