
診療報酬改定による経営難、医師不足・偏在などの影響で、日本の医療機関が続々と倒産・廃院しています。
なかでも医師不足・偏在は大きな問題となっています。
その問題の解決手段として用いられているのが病院・クリニックの事業譲渡・M&Aです。
人材不足、経営難を解決し、よりよい医療サービスを提供する手段として注目を集めています。
今回は病院・クリニックの事業譲渡・M&Aを行う前に知っておきたい3つのことをご紹介します。
目次
事業譲渡とは何?
事業譲渡とは事業の全て、または一部を第三者に売却(譲渡)する事を言います。
ここで言う「事業」とは、一定の目的のために組織化された有形および無形の財産・債務と、蓄積された技術・知識・事業組織・人材・ブランド・取引先など、それまでの事業に関わってきた財産のことを指します。
事業譲渡が行われる目的を大別すると2つあり、経営効率化と事業再生です。
経営効率化は、財務が悪化した際に行われます。事業売却によって得た資金で会社経営を再建する手段です。
事業再生は組織の後継者不在や倒産した場合に社会に多大な悪影響を及ぼす場合です。
売却した資金はその事業を継続させるためや、従業員の保証に用いられます。
病院・クリニックには地域医療を継続性させるという非常に重要な役割をもっています。
しかし、冒頭でお伝えしたように経営難や人材不足で倒産・廃院となれば、その地域の医療機関が途絶えてしまう事も起こりえます。
この問題の解決策として、病院・クリニックの事業譲渡・M&Aが行われています。
昨今では新規開業よりも事業譲渡・M&Aでの承継開業数が上回るようになりました。
事業譲渡・M&Aは、深刻な少子高齢化が原因の『後継者不在問題』に対する解決策のひとつとされています。
病院・クリニックの事業譲渡・M&Aは譲渡側・譲受側双方に大きなメリットがある事が特徴です。
譲渡側は承継者に病院・クリニックを任せる事ができ、地域医療を継続させることができます。
また、売却によってある程度のまとまった資金を得る事が可能です。
譲受側・承継者は新規開業と比較すると数千万円単位で初期コストを抑え開業することができます。
また、患者さん、従業員・スタッフを引き継げるため、早期に経営を黒字化が可能といわれています。
また、事業譲渡・M&Aはネガティブな理由だけで行われるものではない事もあります。
例えば、ある程度の資産形成ができるので早めに医業をリタイアしたい、地域にとって有用な医療活動であるため大手資本の傘下に入ることでさらに地域に貢献したいなどで、事業譲渡・M&Aが活用されるケースもあります。
病院・クリニックの事業譲渡を行う前に知っておくべきポイント
病院・クリニックの事業譲渡・M&Aには行政への届け出など非常に複雑な手続き、手順を踏んで行われるので知っておくべきポイントがあります。
ここからは非常に重要な3つのポイントについてご説明していきます。
事業譲渡は専門家を頼ったほうが良い
事業譲渡・M&Aを考えるようになった時、まずは専門家に相談することをオススメします。
具体的な専門家として、税理士・会計士、銀行・証券会社等の金融機関、M&A専門の仲介会社が代表的な相談先です。
気をつけていただきたい事としては、病院・クリニックの事業譲渡・M&Aは専門的な知識が必要とされるので、医療系に特化した専門家にアドバイスを求めるようにしてください。
医療系専門なので知識・ノウハウはもちろんのこと、医療方針、病院ならではの経営方針をしっかりと汲み取ったうえで事業譲渡先をマッチングしてくれます。
しかし、マッチングには早くても1年の期間が必要です。
良い人材、法人に最高の条件で譲渡したいのであれば時間的余裕がある方が絶対的に有利です。
専門のアドバイザーと共に、「どのタイミングで」「いつごろ」「どのような後継者に」などの検討事項を、時間をかけて計画立案し事業承継したほうが、承継後も安定して病院が経営を続けることができるためです。
確実、安心な事業譲渡を希望する際は、「早急に専門家に相談」するということを覚えておいてください。
事業価値が高くても譲渡先に伝わらなければ意味がない
「事業価値」とは病院・クリニックの医療行為からもたらされる価値のことです。
その病院が将来どれだけの収益を見込めるかを見極めることができる要素なので、譲受側・承継先は事業価値の評価を重要視しています。
具体的な事業価値とは、病院・クリニックが現在、診療行為に活用されている特定の資産が今後生み出す価値の総和(企業価値)から、保有している現金、資産運用株式・金融商品(非事業価値)を引いた価値です。
ただし、「企業価値」と同義で扱われることもあるので注意が必要です。
事業価値の他にも譲渡先がチェックするポイントとして、立地条件、建物の状態、医療機器・備品などがあります。
これらは良い評価を得られれば、全て事業譲渡・M&Aにおいて有利になる材料となりますので、常日頃から第三者目線の意識での評価が大切です。
しかし、多忙な診察でそこまで手が回らないというのがほとんどの病院・クリニックの現状でしょう。
そこで、先程ご説明した医療系の事業譲渡・M&Aの専門アドバイザーに意見を求めると良いでしょう。
専門的な知識をもったアドバイザーが”第三者目線”で現状の長所・短所を見つけてくれます。
長年経営を続けていると、自身でも気づかないうちに固定概念にとらわれ、知らないところで不利益になっている事があります。
そのような点も専門のアドバイザーの意見で修正し事業価値を高められるでしょう。
さらに、専門家に依頼した場合、そのまま事業譲渡先を募るサポートも依頼できます。
いくら事業価値が高いからといっても、事業譲渡を受け入れたいという医師・法人と巡り会えなければ意味がありません。
事業譲渡の成功のカギは譲渡側と譲受先の信頼関係です。
特に事業価値などの資産関連は多くのトラブルの原因となるでしょう。
資産関連を専門家の意見を仰ぎ、信頼性を確保するという事は譲渡先とのマッチングの機会が高まる、という事につながります。
事業譲渡を行う目的があやふやだと譲渡後に後悔しやすい
病院やクリニックを事業譲渡する際には、多くの場合で患者さんも譲受側に引き継いでもらうことになります。
患者さんは通い慣れた病院で今まで通りの診察を安心して受けることができます。
つまり、医療機関の事業譲渡・M&Aを行うということは患者さんの健康管理を別の医師・法人に委ねるという事です。
もしも、曖昧な目的や条件でクリニックを事業譲渡してしまい、ずさんな診療を行う医師に患者さんを引き継いでしまったとします。
もうそのクリニックは自分のものではないのだから責任は無いと思うことができるでしょうか?多くの医療関係者はそうではないはずです。
経営難、後継者不在、大手医療法人傘下に加入したい、経営好調だが早期引退したい、など事業譲渡・M&Aを行う目的は様々です。
目的がどのような理由であっても、譲渡する際に大切なのが「譲れない条件」を明確にしておくことです。
この時、はじめに承継後のイメージを想定して条件を設定しておくと、基本条件が明確になります。
譲れない条件を明確に設定して交渉に臨むことで、承継後の意識のズレを防ぐことにつながります。
また、専門のアドバイザーに仲介してもらい条件をすり合わせていくことで、交渉でのトラブルを回避できます。
はじめに「譲れない条件」を決めておくことで、条件が食い違い事業譲渡後に「こんなはずではなかった」と後悔してしまうことはなくなるでしょう。
病院・クリニックの事業譲渡を行う手順
それでは、ここからは病院・クリニックの事業譲渡・M&Aはどのようにして行われるのかを順を追って説明していきます。
事業譲渡する相手を見つける
病院の事業譲渡・M&Aで特に重要で一番時間を要するのが「マッチング」と呼ばれる「事業譲渡する相手を見つける」プロセスです。
譲渡側、譲受側の希望が合うか、診察科目・医療技術が見合っているか、そしてなにより譲渡後も付き合いが続きますので人柄も含めて検討しなければなりません。
譲渡側が承継したいタイミングで譲受側が見つかればベストなのですが、適当なタイミングで相手が見つかるというのは難しいようです。
このマッチングの期間ですが早くて6ヶ月、長いと1年以上といわれています。
しかし事業譲渡が成功させる一番のポイントは、譲渡側と譲受側の信頼関係です。
それゆえに、時間がかかっても信頼できる譲受相手が見つかるまでは、事業価値を高めるなどに時間を使いましょう。
譲渡先候補から意向表明書をもらう
見込みがある譲受先が見つかり、譲渡するのに適当と判断した場合、秘密保持契約を結んだ後、譲受側は譲渡側の院長・医療法人理事長に対して意向表明書を提出します。
意向表明書の内容は、病院を購入したいという意向、購入条件(売却価格とその対象範囲、時期、従業員・スタッフの再雇用など)とその購入資金の調達方法が表記されています。
この意向表明書の提出で事業譲渡・M&Aが本格的にスタートします。
基本合意書の締結
意向表明書から更に双方の意向を反映し、暫定的な買い取り価格、事業譲渡・M&Aの具体的なスケジュール、定めた期間は他の同業と交渉しない、などが記載されています。
一般的には弁護士、事業譲渡・M&Aの専門コンサルタントが作成し、譲渡・譲受側それぞれの弁護士が内容の確認を行います。
基本合意書には法的拘束力は無く、次のステップ、デューデリジェンス、そして最終契約にむけて一定の条件を合意したということをまとめたものです。
デューデリジェンスの実施
デューデリジェンスとは譲受側が買収対象に対して行う監査です。
ここまでは譲渡側から一方的に開示された資料などから譲渡価格が決められて、それをもとに交渉が行われてきました。このままでは譲受側は譲渡価格が適正に算出されたものかどうか判断できません。
デューデリジェンスは譲渡側・譲受側の持っている情報の非対称性をなくすために実施します。
資料・情報の正確性、買収金額が適当かどうかを、税理士・会計士、弁護士、社会保険労務士ら専門家が検証します。
デューデリジェンスの結果をもとに、契約書の内容を最終調整します。
デューデリジェンスによって、帳簿外の負債が発覚したり、譲渡対象にリスクがあると判断されたりした場合は、事業譲渡・M&Aが中止されることもあります。
契約書の締結
デューデリジェンスが終わると最終契約書締結となります。
基本合意書同様に弁護士による確認が行われ、問題がなければ調印し契約締結となります。同時に診療録(カルテ)の管理についての取り決めも締結します。
個人病院の場合は譲渡・譲受側の合意があれば契約締結とすることができます。
医療法人の場合は出資持分譲渡に関する承認決議が必要になり、これは後述します。
この時点で売買代金の一部を手付金として支払いが行われます。
社員総会の承認
最終契約書締結の調印後、一般的に調印日と資金決済日まで1ヶ月ほど期間を空けます。
その間に医療法人が事業譲渡を行い出資持分譲渡する際には、臨時社員総会を開催します。出資持分譲渡の承認決議が必要なためです。スケジュールの都合上、最終契約と資金決済が同日に行われる事もあります。その際は事前に承認決議をとっておく必要があります。
引継ぎを行う
契約締結のプロセスの頃から、象医院に譲受側の医師が診察に参加します。
短くとも半年ほどの時間をかけて患者さんの引き継ぎを行います。
また、従業員・スタッフを再雇用する場合には顔合わせを行い、スムースな連携で診察が行えるようにします。
医院の売買実行
売買実行は資金決済やクロージングと呼ばれる、事業譲渡・M&Aの最終プロセスです。
個人クリニックを譲渡した場合は旧医院の廃止、新医院の開設を保健所、厚生局、税務署、社会保険事務所に届け出ます。
医療法人の場合は社員、理事会の総入れ替えを行い、同時院長を交代します。届け出は個人と同じく各行政へ届け出ます。
これで事業譲渡・M&Aの全行程が終了し、契約時に受け取った手付金を除く売買代金残額を受け取ります。
なお、売買後1〜2ヶ月間はフォローアップと呼ばれる期間で主に労務面で後継クリニック・法人をサポートします。
病院・クリニックを事業譲渡するならまずは相談
病院・クリニックの事業譲渡・M&Aを行う前に知っておきたい事をご紹介しました。一般企業の事業譲渡・M&Aにくらべて非常に複雑です。
医療関係の法律から、税務、労務、医療業界ならではのルールのようなものがあります。
まずは各種専門家に相談をして情報を集めて事業譲渡・M&Aに臨みましょう。
ご相談の際は、病院・クリニックに関するノウハウを多く持つM&Aコンサルティング社をおすすめします。
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