
国内の人口は30年後には現在より20%少なくなることがわかっており、患者不足や後継者不在問題が、日本の医療制度を崩壊させるとさえ言われています。
人口減少による経営難だけでなく、地方では医師不足、都市部では医師の偏在といった様々な問題を抱えています。
このような問題をかかえているため、医業から引退を考える医師も少なくありません。
そんな中、昨今では病院・クリニックの事業売却・M&Aが活発になっています。
今回は病院・クリニックの事業売却についてご紹介します。
目次
事業売却で病院・クリニックオーナーは得をする?
まず、病院・クリニックの事業売却の成約率はとても高いという事が重要なポイントです。
買い手がいなければ、病院・クリニックは売却できず、廃院するしかありません。
事業売却はオーナーの損得以外にも重要な役割を果たします。
病院・クリニックを引き渡す際、同時に患者さんも引き継ぐケースが多く、地域医療の継続に大きな影響をもたらします。
それでは、事業売却で発生するオーナーのメリットを具体的にご紹介します。
金銭的メリット
まず、事業売却とは事業の全て、もしくは一部を第三者に売却することです。
「事業」は一定の目的のため組織化された有形、無形の財産・債務、蓄積された技術・知識、事業組織、人材、ブランド、取引先などそれまでの事業に関わってきた財産のことです。
つまり、病院・クリニックの土地・建物、医療設備、従業員・スタッフ、そして患者さんがこれにあたります。
病院・クリニックの事業を売却することで、まとまった資金を手に入れる事が可能です。
これに加えて営業権(のれん代)も売却できます。営業権とは、病院・クリニックの実績を価値に換算したものです。
地域で十分に信頼を得ていた病院・クリニックであるならば営業権の価値をしっかりと買い手に提示し、売却が可能です。
ただし、なんの根拠もなく高額な営業権を提示するとトラブルになりかねません。
営業権の算出は土地や建物のように年数などで測れるものではありません。営業権の算出は事業売却の専門家、会計士などに相談するのが一般的です。
他にも金銭的メリットを得る方法として、土地・建物を売却するのではなく、不動産として所有しておいて土地・建物を買取側に賃貸とし貸し出し、賃借料を取るという方法もあります。
精神的メリット
日本中の病院は大小問わず厳しい財務状況が続いています。
東京都内の有名大手総合病院が経営危機に陥り、事業売却した際はニュースにもなりました。
地方では人口減少が進み、ますます集患が難しくなっていきます。
さらに2年に1度の診療報酬の改定、開業資金の返済、従業員・スタッフの安定雇用、というプレッシャーが経営者の肩に重くのしかかっています。
そして、病院を続けられなくなること、地域医療の継続性を途絶えさせてしまうことは医師にとっての最大のプレッシャーでしょう。
病院・クリニックの院長には診療だけでなく経営・マネジメントも必要な時代になりました。
そんな重責から解放されたいと考える医師は少なくありません。
医院事業を売却し引退、売却で得た利益で第二の人生をスタートするというパターンも珍しくなくなってきました。
また、事業だけ売却し病院経営から離れ、診療行為だけに集中するために経営者から勤務医として道を選択する医師もいらっしゃいます。
時間的メリット
勤務医から開業すると、それまでにはなかった「財務」「労務管理」「集患」といった仕事にも追われるようになります。
さらには、都市部の人口密集地域になると、クリニックが乱立し患者の奪い合いが激化しています。
集患のために夜遅くまで診察、土日も診察を行い、休む暇がない病院・クリニックが増えています。
一般企業の経営者がよく言うような「平日と休日の境目がない状態」が病院経営者にも起こっています。
こうなってしまうと、24時間常に気を張っている状態になり、体調・メンタルを壊してしまう恐れがあります。
当然、従業員、スタッフの体調・メンタルにも長時間労働の影響はあるでしょう。
病院・クリニックを事業売却すると、時間的余裕が手に入ります。
開業医には定年退職というものがないため、高齢の医師が後継者不在のため体調を壊しながら診療にあたっている場合も少なくありません。
この問題の解決策として事業売却という選択は、医業から離れて第二の人生を歩むきっかけになります。
病院・クリニックの事業売却でまず始めにすること
事業売却をスタートさせる前に、いくつか重要なポイントがあります。
そのポイントを知っておかないと利益を得るつもりが反対に損をしてしまった、といった事になりかねません。
そして、病院・クリニックの事業売却は非常に複雑で専門的なプロセスを経て行われます。
したがって、まずは事業売却の専門家に相談するのが最良の選択です。
ただその前に、一度自身で考えを整理しておく事も重要です。
ここからは、しっかりと言語化しておくべき3点のポイントについてご紹介します。
なぜ事業売却したいのかを明確に
まずは「金銭的」、「時間的」、「精神的」、又はそれ以外のメリット、どれを一番自分が必要としているのかを精査し、売却目的をハッキリさせましょう。
売却目的をハッキリさせることは、それが事業売却において「譲れない条件」ということになります。
買い手が見つかると交渉で互いの条件を提示するのですが、「譲れない条件」がないままにあやふやな交渉を行うと、買い手だけが得をするような交渉結果になってしまう事になりかねません。
条件交渉の内容は譲渡価格、譲渡財産の範囲と内容、従業員・スタッフの引き継ぎの有無、医療設備・備品の譲渡の有無など多岐にわたり複雑です。
しかし、「譲れない条件」さえハッキリしておけば芯のブレない交渉ができますし、それは買い手も配慮してくるはずです。
交渉をスムーズに有利に進めるために、「譲れない条件」を明確に決めておきましょう。
売却完了までの期限を設定する
病院・クリニックの事業売却の成約率が高いとはいえ、その売却・成約期間については短くて半年、長い場合は2年以上かかるなど、ばらつきがあるので注意してください。
すぐ交渉に入れるか、良い買い手が現れるかどうかは、買い手のタイミングによるものが大きいためです。
しかし、希望の売却完了スケジュールは予め設定しておきましょう。
いつまでも募集を募っている病院・クリニックはあまり良い印象を持たれません。
売却側がスケジュール感をもって売却に臨むことで買い手も買取までのスケジュールを共有できるので、交渉がより具体的になりスムーズに契約締結に向かう事ができます。
売却事業の強みを明確に
事業売却の交渉の前に、自身の医院の強みを明確にアピールポイントとして決めておくとよいでしょう。
ここでいう強みは、現在の病院・クリニックでありがちな医師やスタッフ個々人に依存したスキルの事ではないので注意してください。
売却の際に買い手に価値をもたらす集患システムなどのビジネスモデル、設備などを指します。
例えば、「訪問診療をはじめとした地域に根ざした医療方針」、「地域の同じ科目の他クリニックにはない最新医療機器」、「安定した集患体制」などが一例です。
ほかにも、地域の人口の開発・発展、動向などもアピールポイントになります。
専門家の相談・査定を受ける
上記3点について条件を出し、洗い出しができたら事業売却・M&Aの専門家に相談・査定を依頼しましょう。
実は上記3点も専門家と共に洗い出していったほうが良い結果をもたらす場合があります。
それは、経験豊富な医療系コンサルタントとしての第三者目線で見てくれるからです。
自身では気づかなかった病院・クリニックの強みと弱点を指摘してもらい、売却までに改善できるところは改善していきましょう。
ところで、医療関係の事業売却・M&Aは一般企業のそれと比較すると特殊性、専門性から非常に難易度の高い取引とされています。
たとえ面識があり信頼のある個々人のクリニックが売買契約を結ぶとしても、個人で行政に各種届出を行うのはほぼ不可能です。
事業売却には専門家に仲介してもらい、相談・査定などその分野のスペシャリストの力を借りるようにすると良い結果につながります。
病院・クリニックの事業売却を行う際のポイントは
事業売却の専門家に相談・査定を受けて事業売却をスタートし、成功させ目的の利益を得れるかどうかにはいくつかのポイントがあります。
中には契約が破談になってしまうこともあるような注意点もあるのでしっかりとした理解が必要です。
思い立ったが吉日
何事もそうであるように事業売却の準備は早ければ早い方がいいです。
ぼんやりとでも事業売却をイメージするようになったら、専門家に一度相談してみましょう。
事前準備をきちんと時間かけて行うかどうかが事業売却成功のカギです。
まずは「事業売却でまず始めにすること」を専門家のアドバイスをもとにブラッシュアップしていきましょう。
そこからさらに具体的に、「売却価格」、「事業価値」、「財務状況の整理」、「不良債権」、などを整理していきます。
とくに交渉において「財務情報」は重要視されます。お互いに情報を開示して精査しますので不正などないようにしましょう。
また、「労務状況」も近年重要視されてきています。こちらも隠すこと無く正確なデータを提示するようにしましょう。
前述の通り事業売却にはある程度の期間を要します。つまり、明日中に事業売却したいといった事は不可能です。
したがって、早めに事業売却の準備が必要です。
準備を始めるタイミングとしては診察の予約がうまっている、盛業されている時期がベストです。
なぜなら、受診者数が多い病院・クリニックほど買取先が多いためです。
忙しい病院ほど交渉もうまくいきます。もし診療時間を減らしたり、休診日を増やしたりしてしまうと患者さんは離れていくでしょう。
すると診療報酬は下がり、買取先は興味を示さなくなります。良い条件で事業売却するためには早めの検討が必須です。
売却確定まで従業員や患者を不安にさせない
事業売却の原則として、事業売却に関わる人間が一連の話を「秘密」にする必要があります。
事業売却の話が第三者に漏れてしまうと、病院の利害関係者(従業員、患者、取引先、取引金融機関等)に大きな影響を与えます。
もし売買契約が成立する前に情報が漏洩した場合、特に患者・利用者に話が漏れた場合は深刻です。
患者・利用者が病院側に不安感や不信感を抱き通院しない、転院してしまう恐れがあります。
診療報酬が下がると事業売却の交渉には大きなマイナス要因です。
また、取引先金融機関が事業売却に関して知見がない場合、融資姿勢を変更してくる可能性があります。
反対に事業売却に知見がある金融機関の場合は協力的になってくれる可能性もあるでしょう。
交渉が長期にわたるほど、ストレスなどで秘密が漏れやすくなると言われています。
このような点も経験豊富なコンサルティング業者に相談することで円滑に交渉が進むでしょう。
事業売却をした先の目標を決める
最初にお話した「金銭的メリット」、「精神的メリット」、「時間的メリット」、そして「譲れない条件」で事業売却した先の目標を決めましょう。
例えば、条件として「従業員、スタッフ、そして地域の患者さんを守る」としたとします。
事業売却では「事業」だけを売却することもできます。
つまり、病院の経営だけを医療法人などに売却します。
長年連れ添ってきてくれた従業員を再び安定して雇用することができ、地域の患者さんにも今までの従業員・スタッフが変わらず対応することができ、患者さんにとってはとても安心につながります。
これが「譲れない条件」を決める・目標として事業売却を行うべき理由です。
病院・クリニックの事業売却の相談先
病院・クリニックの事業売却は今後ますます活発化していくと予想されます。
すでに新規での病院・クリニックの開業件数よりも事業売却・譲渡での開業件数が上回っています。
買い手はより良い条件の病院・クリニックを探しています。
そのため事業売却を考えているのなら、買い手の目に留まるように医院の価値を高めていかなければ、良い買い手はなかなか現れないでしょう。
良い買い手と巡り合うための近道は、既に説明しましたが病院・クリニックの事業売却の専門家に相談することです。
依頼する際には経験豊富な医療系の事業売却案件の経験豊富な専門家に頼むようにしましょう。
また相談先は1箇所だけでなく「医療コンサルタント」、「顧問弁護士」、「会計士」、など各方面に相談して情報を多く集める事が大事です。
一方向からの目線に偏らずに多方面から情報を精査し、医院のメリット・デメリットを把握することが良い事業売却につながります。
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