
初期コストを抑える事ができ、患者も引き継ぐことが可能な事業承継での病院・クリニックの開業が増えています。
年々M&Aと事業継承の成約数は増加していて、今ではM&Aと第三者への事業承継の合計が親族承継を上回っています。
少子高齢化で後継者不足を解消し地域医療を継続させる手段として注目を集めている事業承継、今回はその成功事例から事業承継のポイントを読み解いていきます。
目次
病院・クリニックが事業承継を行う背景
日本の高齢化の影響は大きく、病院・クリニックの医療従事者のうち、70歳以上の割合は25%にのぼるといわれています。
医師の高齢化が病院・クリニックの後継者問題に多大な影響を及ぼしています。
毎年約4000件の病院・クリニックが開業する一方で、ほぼ同数の病院が医師の高齢化と後継者不在の為に閉院しています。
また、日々のハードな業務から解放されたいと考える医師も少なくありません。
しかし、地域の医療機関としての重責や、雇用している医師・従業員のことを考え、高齢の医師が診療を続けているとう現実があります。
後継者不在の問題や、医師の高齢化問題に対する解決策とされているのが、病院・クリニックの第三者への事業承継です。
譲渡側と承継側の両者にそれぞれメリットがあります。
譲渡側のメリットは、病院・クリニックの建物、医療設備、営業権を売却してまとまった資金を手にすることができます。
これまで雇用してきた従業員や患者さんも承継をする医師に託すことができる点も地域医療の継続性のためにも重要な点です。
事業承継で病院・クリニックを開業する側のメリットは基本的に建物・設備などの不動産、従業員・スタッフや患者さんをそのまま引き継ぐことができるということです。
建物・設備は改修の必要がある場合もありますが、それでも新規で土地・建物を用意するより、はるかに資金を抑える事ができます。
なにより患者さんを引き継ぐという事は集患に気を配る必要が無く、経営を早期に黒字、安定化できる可能性があります。
病院・クリニックの事業承継の事例
ここからはいくつかの事業承継事例をご紹介します。
病院・クリニックを譲り渡した背景、新規開業ではなく承継開業を選んだ背景を読み取っていきましょう。
【事例①】
Aクリニックは長年にわたり地域医療で高齢者医療に大きく貢献していましたが、院長であるA医師も高齢となり医業からの引退を考えていました。
Aクリニックの地域は高齢者比率が全国平均より高く、地域医療を継続させるためにもクリニックを継続して経営させなければならないのですが、残念ながらA医師には身内に承継者がいませんでした。
そこに開業を検討していたB医師がAクリニックの状況を聞き、話し合いの場が設けられる事になりました。
B医師は地域医療に貢献したいという熱意をもっており、A医師はクリニックを安心して任せられると考え承継を依頼しました。
B医師は初期コストの低さ、Aクリニックが長年地域で信頼を得ていたことによる経営リスクの小ささなどから、Aクリニックを承継することに決めます。
Aクリニックの建物は築浅で改修費用などは必要ないうえに、ほとんどの医療設備が減価償却を終えていました。
開業資金に不安のあったB医師にとっては好条件で承継開業がスタートすることができます。
さらに従業員・スタッフの多くと再雇用を結ぶことができ、患者さんをこれまで通りに安心して診療できる環境を整える事ができました。
承継開業直後は若干来院される患者数が減りましたが、B医師の医療方針が徐々に地域に浸透したことで1年後には承継前の患者数を上回るほどになります。
開業のリスクを最小限に抑える、従来の患者・従業員を引き継ぐという承継開業のメリットを活かし経営を軌道に乗せることができた事例です。
【事例②】
C医師は、経営していた耳鼻科を息子のD医師に承継したのですが、D医師が急逝してしまいます。
引退していたC医師が緊急措置として院長に復帰し診察を再開しますが、C医師も高齢のため承継者を探すことになりました。
幸いに近隣の耳鼻科勤務医のE医師が承継者として決まります。
承継開業ですが、医院の名称は変更せずに引き継ぎました。これには地域での知名度が高いことと、いずれD医師の息子が病院を引き継ぐ事が決まっていたためです。
そのため、E医師は建物と医療機器・備品を賃貸借契約としました。
これによりE医師は初期コストを大幅に抑え開業できました。
E医師が院長となり診察を開始した後もC医師は患者の相談対応するなどして、E医師をバックアップします。
従業員・スタッフもC医師と長年診察を共にしてきたので連携がとれており、E医師もミーティングを通してチームワークを強めていきました。
この事例では譲渡側、承継側双方のメリットが一致したことで交渉がまとまりました。
譲渡側は建物を賃貸契約とすることで安定した家賃収入を得る事ができます。
さらに、D医師の息子がD耳鼻科を承継開業する際には経営、診察の補佐役として、E医師がD医師の息子のサポートする契約を結びました。
E医師は医療機器・備品を賃貸借契約としたことで初期コスト大幅に削減して開業することができました。
C医師のサポートがあったことや、ほとんどの従業員・スタッフは同じメンバーを引き継げたことにより、譲渡後も安定した診療を行う事ができ、早期に採算が取れる経営を実現しています。
【事例③】
開院から20年経過し年齢も60半ばになる内科医医院のF院長は、健康なうちに医業を引退したいと考え後継者を探していました。
身内に承継してくれる医師がいないため、第三者から承継者を募る事となりました。
承継には条件があり、「患者さんをしっかりと引き継いでくれる」真面目な医師に医院を任せたいという点です。
医院はビルテナントで敷金の返還義務の承継はあるものの、土地・建物の買い取りに比べれば比較的コストを抑えられるというメリットもあってか、すぐに3名の医師が承継候補から声がかかりました。
その中で諸条件が最も合っていたG医師と面談を行い、承継者候補としました。
しかしG医師自身は、これまでの診療方針を引き継いで医院を経営・運営できるかという点に不安を感じていました。
そこで、F院長の補佐として診察に立会い、診療方針の確認と患者の引き継ぎを行いました。
1ヶ月間、診察を補佐したことでG医師はF院長の診療方針をもとに患者を引き継げると自信をつけ、医院を承継することが決まりました。
その後の交渉もF院長の要望は、「患者さんをしっかりと引き継いでくれる」という点のみだったため、滞りなく手続きは進み開院となりました。
1ヶ月医院で診察を補佐したことで患者さんの引き継ぎもスムーズにいき、F院長の要望通りの事業承継が実現しました。
病院・クリニックの事業承継のポイントとは
3件の事例からも「開業の初期コストを抑えられる」「患者を引き継ぐことによる経営リスクの低さ」というメリットが読み取れました。
ここからは、さらに詳しく事業承継のポイントを解説していきます。
設備や治療機器が最新か
土地・建物、医療設備・備品を引き継ぐということはメリットですが、建物・設備があまりにも老朽化し、医療機器が古い場合は承継側の医師の負担で設備投資が必要になってきます。
あまりにも設備投資にコストがかかる場合は承継者が現れない恐れがあります。
譲渡側の病院・クリニックは将来設計の意味でも設備投資をしておくと良いでしょう。
もちろん新たな医療機器で患者さんにも最新の医療を施すことができ、改装してきれいになった内装などは患者に安心感を与えることにつながります。
つまり、患者数も獲得できる見込みもでき、患者数が多ければ更に後継者は見つかりやすくなります。
では承継開業の際には設備が最新でなければならないかというと、それは医師それぞれに医療方針・経営方針があるため一概にこれが正解というものはありません。
コストを抑えて開業できるという点にスポットを当てると、中古医療機器でも十分な性能を発揮するものが流通しています。
最先端の医療機器かコスト優先か、しっかりと考えなければならないポイントです。
周辺地域の人口と他病院・クリニックの数
病院・クリニックの経営を考えるとき、どこで開業するかという問題は、新規開業でも事業承継でも同じく悩ましい問題です。
都市部や駅前、ベッドタウンのような集患に都合の良い立地条件、将来的に開発が期待されているエリアで開業したいというのは当然のことでしょう。
しかし、そのような地域の人口と、他病院・クリニックの数や自分の専門と競合していないかは、経営上必ず調査しなければなりません。
承継開業で好条件の設備、多くの患者を引き継いだとしても、地域の地理的条件や生活スタイル、世帯数、昼間・夜間の人口の比率から的外れな診療方針では、患者さんは離れていってしまいます。
別の病院・クリニックがどういう方針なのかも知っておく必要があるでしょう。
これらの情報は前院長らからの引き継ぎで確認するのはもちろんの事、製薬会社の営業や機器メーカーの営業、さらには患者さんなどからの情報を自身で集めることも必要です。
開業直後に診療方針を大きく変えるのは患者さんが離れてしまう原因となってしまいますが、周囲の環境と自身の病院・クリニックの強みを比較して、方針を変えていく事は経営者として求められるスキルです。
事業承継後の目指す目標の設定
事業承継後に安定して利益を出せる経営状態にするための大きなポイントは、承継側と譲渡側の医療に対する理念・方針を互いに正しく認識する事です。
そのために「事業承継計画書」を作成し譲渡側と承継側の目的を一致させます。
事業承継計画書のもと、十分な時間をかけて段階を踏み事業承継すると、承継後の目標を見定めやすくなり、承継後の経営も順調に採算ラインにのりやすいです。
事業承継計画書の作成は
①経営理念の策定
②経営ビジョンの策定
③事業承継計画の策定
④経営方針・経営計画の策定
の手順で行われます。
①の経営理念は現在の病院の経営理念がどのような過程で形成されたのかを承継側に理解してもらうためです。
その後②経営ビジョンの策定に移ります。
今までの経営理念を引き継ぐのか、新たな経営理念を策定するか譲渡側と承継側で話し合い、それをもとに病院の将来像を明確化する事が目的です。
現在の経営状態、地域人口の動向、医療制度の改定などを想定し、将来的な病院の立ち位置を見定める重要なステップです。
③事業計画の策定では、具体的な組織図や経営権の承継方法、税金対策から設備投資の資金調達までを計画します。
そして、経営理念、経営ビジョン、事業承継計画をもとに④あらたな経営方針・経営計画を策定します。
すると事業承継後の目標を設定が明確になり、早期に経営を採算ラインに乗せることができるでしょう。
M&Aの専門家に頼るのもアリ
病院の事業承継は譲渡側と承継側双方が協力し、継続的に地域に医療を提供していくという事が最終目的です。
しかし、病院のみならず一般的な企業でも事業承継は難しいとされています。
それは、譲渡側も承継側も事業承継の経験がはじめてというケースが多いからです。
そこで、第三者視点で事業承継交渉のサポートをしてくれるM&Aの専門家に譲渡・承継側の仲介を依頼することをおすすめします。
病院・医療系M&Aの専門家とは医療法人の売買のことを指しますが、小さな病院・クリニックが廃業している時代背景から、それらの承継開業のサポートにも病院M&Aの専門家が活用するようになっています。
M&A、事業承継を相談する際には必ず病院M&Aの専門家に依頼するようにしてください。
病院は行政への提出書類などが一般企業のM&Aとはスケジュールの進め方が異なる点が多いためです。
病院M&Aの専門家に譲渡側が病院M&Aの専門家に相談すると、その病院・クリニックに適した承継開業希望の医師を紹介してくれます。
医療機関価値算定や財務的な検討、交渉支援から最終契約などの煩雑な手続きを仲介、約6ヶ月〜1年の期間という短期間で病院・クリニックの事業承継をサポートしてくれます。
なかには開業後の経営戦略、会計までサポートしてくれる事務所も存在し、承継開業する際の強い味方になってくれます。
病院・クリニックの事業承継を行うなら
3件の事例から病院・クリニックの事業承継が譲渡、承継側の双方に大きなメリットがあることが分かったと思います。
その半面、承継開業にいたるまでには複雑なステップがあり、病院M&Aの専門家にサポートを求めたほうがスムーズに開業できることもご理解いただけたはずです。
譲渡、承継どちらの側でもまずは専門家に相談してみることをおすすめします。
病院M&Aに強いおすすめの相談先は、M&Aコンサルティング社です。
現事業の価値を把握し、その価値を最大化した上でM&Aを行っていくことを得意としていますので、まずは一度ご相談をしてみてはいかがでしょうか。
>>匿名で相談・簡易査定をしてみる<<