
「パン屋を継いでくれる後継者がいないので、M&Aを考えている」
「とはいえ何から始めてよいか分からないので、実際の事例から学びたい」
このように考えている方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、パン屋のオーナーがM&Aを選ぶ理由や具体的なM&A事例、M&Aを成功させるために着目したいポイントについて解説します。
実際の事例を考察することで、自店のM&Aを行う際に目的と戦略をどう定めたらよいかの参考になれば幸いです。
目次
パン屋オーナーがM&Aを選ぶ理由とは?
この記事で紹介するパン屋のM&A事例には、次のような傾向があります。
- 異業種間のM&A
- 同業種間のM&A
- 事業承継
それぞれ、パン屋のオーナーがM&Aを選んだ理由も少しずつ異なってきます。
異業種間のM&Aでは、異業種のパン屋やベーカリー事業を買い手が買収することによる、ベーカリー事業への新規参入、自社事業の多角化などが挙げられます。
同業種間のM&Aでは、同業種を買い手が買収することによる、パンの製造・販売ノウハウの強化、共同調達によるコスト削減などの生産性向上、出店エリアの拡大などが挙げられます。
事業承継は、パン屋のオーナーに後継者がいない場合に、第三者に事業を承継することで、パン屋の存続とさらなる成長を目的に行われます。
地域で愛されるパン屋は既に社会的財産といってもよく、後継者がいなくともM&Aを行えば、オリジナルメニュー・技術の承継や従業員の雇用確保が行われ、オーナーが変わっても店は続いていきます。
上記以外にも、不採算の店舗売却による利益が出ている店舗への経営資源集中や、資金調達のための店舗売却、生き残りをかけての大手チェーンへの傘下入りなどが挙げられます。
パン屋のオーナーがM&Aを行ううえで、なぜM&Aを行うのか、目的を明確にする必要があります。
目的に応じて、同業種・異業種等どんな買い手を選ぶかや、目的に応じた戦略も変わってくるからです。
パン屋のM&A事例
では、パン屋におけるM&A事例を順番に紹介していきます。
異業種間のM&A:カフェがパン屋を買収
異業種間のM&A事例として、カフェのフランチャイズ加盟店を運営する企業が、町のパン屋さんを買収したケースを紹介します。
カフェとパン屋は異業種ですが、M&Aによってカフェで焼きたてパンを提供でき、互いの強みがシナジー効果を生み出すのは容易に想像できるでしょう。
買い手のカフェ側にとっては、パンの製造技術や店舗経営のノウハウをゼロから学ぶことなく入手できるため時間やコストの短縮が可能という大きなメリットがあるため、この件ではパン屋の営業利益はそれほど大きくありませんでしたが、M&Aに踏み切ったという事情がありました。
異業種間のM&A:大手コーヒーチェーンがベーカリーを買収
他にも、異業種のカフェがベーカリー事業のM&Aを行った大きな事例として、ドトール・日レスホールディングスによるサンメリーの買収があります。
サンメリーは1946年に創業し、焼きたてパンの「サンメリー」や店の石窯でパンを焼く「石窯パン工房」など、東京都と埼玉県で30件以上の店舗展開を行っています。
パンに使用するのはすべて天然塩で、小麦粉も各パンに合うよう品質や産地を吟味して開発を重ねたオリジナルブレンドを使い、牛乳や小豆などその他材料についても美味しさと安全性第一で選んでいます。
パンに使うソースやカレーなども、余分な添加物を使わないように可能な限り手作りの具を使い、どんな自家製食材を使っているかは値札に記載しているというこだわりです。
ドトール・日レスHDは、「ドトールコーヒー」「エクセシオールカフェ」「洋麺屋五右衛門」「星乃珈琲店」などのカフェ・レストラン事業を運営する大手企業です。
カフェとパン屋は共同出店を行いやすく、M&Aによってサンメリーが持つパンの製造・販売のノウハウを活かしたベーカリー併設店舗の開発などが見込まれます。
異業種間のM&A:アミューズメント企業がベーカリーを買収
カフェ以外の異業種においても、M&Aによるベーカリー事業への新規参入が進んできています。
2018年9月、プローバホールディングスは、ベーカリー事業を運営するGROW UPを買収しました。
GROW UPは、鳥取県や岡山県で、全品100円の焼きたてパンを提供する「ベーカリーマーケット」を複数店舗展開しています。
常に最高の状態で均一を保てるように徹底した製品体制と焼きたてにこだわる「商品」、100円で感動を生む「価格」、清潔感と衛生管理を徹底した「安心」、心あたたかな接客の「サービス」の4つにこだわる企業です。
プローバホールディングスは広島県に本社を持ち、パチンコ事業などのアミューズメント・介護福祉支援・保険・人財開発など事業を多角的に展開しており、地域社会・お客様・従業員の3つの満足追求を企業理念としています。
両社は企業理念や経営方針において合致し、M&Aによって互いのノウハウを融合させることで、より付加価値の高いサービスの提供が見込まれます。
同業種間のM&A
同じベーカリー事業を運営する同業種間でも、生産性向上や店舗拡大のためにM&Aを行っています。
2018年3月、昭和産業は、カルビーの子会社であるガーデンベーカリーの株式を取得しました。
昭和産業は1936年創業、パン・ケーキ・ホットケーキミックスなどの製粉事業や「昭和天ぷら粉」などの家庭用食品事業、食用油や配合資料の製造・販売を行う老舗の食品会社です。
子会社には、冷凍パン生地などを製造するグランソールベーカリーや、生地を焼いて最終製品にするスウイングベーカリーなどがあり、最終製品はセブンイレブン・ジャパンに出荷しています。
ガーデンベーカリーは1996年創業、コンビニエンスストア向けの惣菜パンや菓子パン類の製造・販売を行っています。
冷凍パン生地の製造・焼成・コンビニエンスストアへの出荷を行っている同業種間でのM&Aは、両社間の相互連携を強化することで生産性の向上と商品開発におけるシナジー効果が生まれる組み合わせです。
パン屋の事業承継
最後に、パン屋のオーナーに後継者がいない場合は、事業承継の一つとしてM&Aを選ぶことがあります。
秋田県の「珈琲とパンの店美豆木」は、2015年に現オーナーの菅野氏が、旧オーナーの天野氏から事業を譲り受けて開業した店です。
旧オーナーの天野氏は「珈琲美豆木」を27年間経営してきましたが高齢を迎えたため、インターネット上の不動産情報サイトに、店舗売却と事業を譲り渡したい旨を掲載しました。
現オーナーの菅野氏は、パン職人として修行を積んだ後に食品会社で働いていましたが、募集を目にして「珈琲美豆木」のカフェ事業と、自らのパン製造技術をかけ合わせた「ベーカリーカフェ」の開業をひらめいのたです。
その後、秋田県事業引き継ぎ支援センターのサポートのもと、天野氏は「美豆木」という店名を残すことを条件に、店舗の売却と事業の譲り渡しを決めました。
事業承継により、ゼロから開業するのとは違って、店舗や什器、それまでの常連客、こだわりのコーヒーや名物カレーの作り方といった旧オーナーからの経営指導など、豊富な経営資源を活用でき、かつ、新オーナーのパン製造といった強みも新たに活かすことのできた良い事例といえます。
パン屋のM&A事例から読み取る成功ポイントとは
ここまで、パン屋やベーカリー事業のM&A事例を紹介してきましたが、実際にパン屋のM&Aを行ううえで、ここに着目したいという成功ポイントを紹介します。
- 店舗数(ある程度店舗数があれば原材料の仕入れを安くできる)
- 立地
- 有名な商品やパン職人の有無
- M&Aの専門家に頼るのもアリ
店舗数
パン屋やベーカリー事業が、同業種間でM&Aを行う理由として、店舗や事業を統合することで、原材料などの仕入れコストを安く抑えるという目的があります。
どの業界でも同じですが、原材料を仕入れるにも、1つの店舗が都度発注するよりも、できるだけ多い数の店舗が一度に大量発注した方が、都度分の発送などのコスト削減や値引きが可能となるため、安く仕入れることが可能です。
そのため、ある程度パン屋が大きくなりブランドが確立されてくると、店舗数を増やすことで、調達など共同で行える工程にかかるコストを削減して生産性を向上させることを目的に、M&Aを行うことがあります。
昭和産業とガーデンベーカリーのM&Aも、同業種間のシナジー効果を狙ったものです。
立地
パン屋の出店エリアを拡大したい場合、ゼロから始めるよりも、既に存在する店舗を買収して新規出店にかかる時間やコストを節約するという戦略があります。
異業種がパン屋への新規参入を考えた場合も同じで、M&Aにおいては、パン屋の店舗数が多く立地が良いのに越したことはありません。
ドトール・日レスHDがサンメリーを買収したのも、サンメリーが都内に30以上の店舗と一定の知名度を持っていたのも理由の一つに挙げられるでしょう。
有名な商品やパン職人の有無
有名な商品やメディアで取り上げられるようなパン職人を有するパン屋であれば、商品や職人目当てでお客がつきます。
商品のオリジナル製法やパン職人の高い技術を、M&Aを行うことで時間をかけることなく入手できるのは大きなメリットです。
サンメリーも、店の石窯で焼いたパンや、天然塩やオリジナルブレンドの小麦粉など、素材にこだわった独自のメニューを持っています。
自社でもミラノサンドなどのパンメニューを開発していたドトール・日レスHDにとっては、M&Aを行うことで、サンメリーが持つノウハウを、既存メニューの品質向上や新商品開発などに活用できるメリットがありました。
M&Aの専門家に頼るのもアリ
企業がM&Aを行う場合は、買い手と売り手の間に、専門家であるM&Aアドバイザーが入っていることが一般的です。
M&Aには、税務・会計・法務・労務など広範囲の専門知識と経験が必要とされ、手続きも複雑で、さらには秘密を保持しながら買い手候補を探すのは、独自のコネでも持ち合わせていない限り、中小企業のオーナーには難しいからです。
特に、パン屋のオーナーは、何よりもパンづくりが大好きなため現場に出がちで、オーナーが変わっても経営が続いていくような体制作りや社員への権限委譲が進んでいないケースもあります。
パン屋のM&Aを実際に行う場合は、早めの準備が必要となります。
例えば、決算書ひとつとっても、数期分の決算書をすぐに用意できないオーナーの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
さらに、パン屋の実態と決算書上の数字を可能な限り一致にさせるため、記載漏れや粉飾決算、過度な税金対策を行わないなどの事前準備をしなければなりません。
専門家であるM&Aアドバイザーに相談することで、オーナーに依存していた経営体制や、自社のお金の流れなど、客観的な外部の目からパン屋の経営を振り返ることが可能となります。
パン屋のM&A事例をさらに聞くなら
ここまでパン屋のM&A事例を紹介してきましたが、町のパン屋のM&A事例はニュースに掲載されないため、素人が事例を収集するのは難しいです。
そのため、M&A事例をもっと知りたい場合は、M&Aアドバイザーに相談してみることをおすすめします。
パン屋やベーカリー事業、食品事業を専門とするM&Aアドバイザーであれば、各自独自の情報ネットワークを持っているため、具体的なアドバイスとともに過去のM&A事例を紹介してくれます。
M&Aアドバイザーというと敷居が高いように感じるかもしれませんが、着手金不要の成果報酬型も増えてきており、パン屋のM&Aが確定するまでは無料で相談することができます。
そのため、気楽な気持ちでインターネット上から相談してみてはいかがでしょうか。
M&Aコンサルティング社のエージェントに相談すれば、幅広い知識とノウハウを活かして、的確なサポートを得られるでしょう。
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