
「パン屋を引き継ぐ後継者がいないけど、もう引退したい」
「パン屋のM&Aを考えているけど、どうしたらよいだろう」
パン屋を手放すことを考えているなら、M&Aについて知っておくと、引退後の選択肢を広げることができます。
この記事では、パン屋のM&Aを検討するうえで知っておきたい、M&Aとは何かとそのメリット、注意ポイントなどを解説します。
パン屋のM&A
M&Aとは
「M&A」とは”Mergers(合併) and Acquisitions(買収)”の略語で、企業における合併や買収を指します。
「合併」は、複数ある企業を統合することであり、「買収」は、企業(または個人)が、別企業の経営権(株式)を部分または全体的に買い取ることを指します。
M&Aの意味には、合併・買収だけではなく、広い意味における企業間提携(資本業務提携・事業譲渡など)が含まれることもあります。
M&Aという言葉から、会社の乗っ取りといったネガティブなイメージを思い浮かべる方もいるかもしれません。
ですが、中小企業においてM&Aは、後継者不在などの問題を解決する有効な手段という意味合いの方が強いです。
そもそも、中小企業では株式の譲渡制限を定めていたり、上場企業が少なかったりなど、敵対的なM&Aに必要な株の買い占めが難しいのです。
そのため、M&Aのほとんどが、相手と交渉しながら進める友好的なものとなります。
2006年に施行された「新会社法」などによって手続きが簡素化されたこともあり、M&Aは中小企業にも身近なものとなってきました。
中小企業におけるM&Aの件数は、中小企業庁「2018年度版中小企業白書」によれば、2006年の件数を100とした場合、2015年では168.5となり、急増しているという現状があります。
事業譲渡や株式譲渡を行うメリット
M&Aの一種に、事業譲渡や株式譲渡があります。
「事業譲渡」とは、第三者に、事業の全てまたは一部を、有償で譲渡することを指します。
「株式譲渡」とは、株主が第三者に株式を譲渡することによって経営権を売買することを指し、M&Aで最も頻繁に使われる手法です。
株式譲渡は会社まるごとの譲渡となりますが、事業譲渡は一部の事業のみ譲渡することができます。
そのため、中小企業で行われるM&Aで最も多いのは事業譲渡で、次が株式譲渡、合併となっています(中小企業庁「2018年度版中小企業白書」より)。
事業譲渡や株式譲渡を行うメリットの一つとして、後継者がいなくても事業承継が可能という点があります。
中小企業庁「2018年度中小企業白書」第2部第6章によると、中小企業における経営者の年齢ピークは、1995年は47歳だったのが2015年には66歳となっています。
つまり、この20年で後継者に事業が承継されないまま、オーナーが高齢化しているのです。
さらには、オーナーが60歳以上の中小企業において後継者不在率は48.7%と、2社に1社が後継者不在で悩んでいるという現状があります。
後継者不在の問題においては、「後継者の決定」「後継者の教育」に数年間のスパンで時間が必要です。
ですが、事業譲渡や株式譲渡などのM&Aを行うことで、後継者がいなくても、それほど時間をかけずに事業を承継することが可能となります。
パン屋がM&Aを行うケース
では、パン屋のオーナーがM&Aを行うケースには、どのようなものがあるのでしょうか。
- 後継者がいない
- アーリーリタイアしたい
- 健康問題で経営を続けられない
- 今後の経営に希望が持てない
- 店舗拡大のための資金や人員が足りない
後継者がいない
既に説明したように、後継者不在に悩んでいる中小企業は多く、それはパン屋のオーナーも同じです。
子ども自体が「いない」、子どもがいてもパン屋を「継がない」、または親も継がせたくない、さらには子どもに素質がなくパン屋を「継げない」など、事情は様々です。
後継者がいる場合も、経営者としての知識をつけたり実地経験を積んだりするには、数年間のスパンでの後継者教育を要します。
こうした事情から、後継者がいないけれど引退したい場合にM&Aを選ぶオーナーが増えてきているのです。
アーリーリタイアしたい
後で詳しく説明しますが、M&Aには現金が得られるという金銭的メリットがあります。
M&Aで得られる金額が、リタイア時期までに見込まれる役員報酬の総額よりも多い場合は、地道に働くよりもアーリーリタイアして残りの人生を楽しもうという選択肢も当然あるでしょう。
健康問題で経営を続けられない
先ほど述べたように、中小企業オーナーの多くが60代を迎えているため、健康問題から経営を続けることが難しくなってくるケースがあります。
例えば、急に入院してしまった場合に、改めて後継者問題をどうしようと悩むことが多いようです。
そうした場合は、後継者を見つけて教育をする時間が取れないので、オーナーが亡くなる前に確実に事業を承継するためにM&Aを選択することがあります。
今後の経営に希望が持てない
ここまで、高齢のオーナーに多く見られるM&Aの動機を挙げてきましたが、オーナーが高齢でなくても、今後の経営に希望が持てなくなってパン屋を手放したくなるケースもあります。
近頃では、コンビニでもプライベートブランドが扱われるようになったり、スーパーの中にもベーカリーが入っていたりなど、わざわざパン屋に行かなくても、手軽に美味しいパンを食べることができます。
味やコンセプトに卓越したものがないと顧客を惹きつけ続けることが難しいため、パン屋をやめて新しい事業を始めるための資金作りとしてM&Aを行うケースもあります。
店舗拡大のための資金や人員が足りない
逆に、パン屋の店舗を拡大したいけれど資金や人員が足りない場合も、M&Aを行うことで問題解決できます。
既に自店のブランドを確保している場合も、買い手の資本や人員を入れることで、ブランド名を保持したまま、店舗の拡大や原料の仕入先拡大によるコスト削減、労務環境の改善などが可能です。
パン屋のM&Aでオーナーが得られるメリットとは?
では、M&Aによってパン屋のオーナーが得られるメリットについて、順番に解説していきます。
- 心理的負担の軽減(経営、後継者)
- 金銭的メリット
- 新事業への挑戦や引退後の生活
心理的負担の軽減(経営、後継者)
パン屋を経営するうえで、オーナーは心理的負担を背負っています。
近くに大きなスーパーやコンビニができたり、小麦などの原料代が上がっていったりなど、日々状況が変化する中で、売上や従業員のための給与の確保、資金繰りや借り入れのための個人保証など、経営上の悩みに日々苦しんでいます。
さらに、後継者がいない場合は、だれにパン屋を継いだらよいか、子どもか従業員か、後継者が決まってもどうやって引き継いでいけばよいか、教育はどうするか、個人保証は引き継いでもらえるか……など、悩みは尽きません。
M&Aによりオーナーの地位を引き継ぐことで、経営問題や後継者不在などの問題から解放されて、羽が生えたような気持ちで新しい人生にチャレンジすることも可能です。
金銭的メリット
M&Aの一種である株式譲渡などを行うと、「創業者利益」と呼ばれる現金が手に入る場合もあります。
パン屋の事業に成長性が認められれば、純資産額に「のれん代」が追加されて、オーナーがこれまでに出資した金額を越えるケースがあるからです。
「のれん代」とは、パン屋のブランドや地域の優良顧客など、資産として帳簿には載っていないけれど利益の源となっている無形財産を指します。
加えて、銀行などからの借り入れのために、オーナーとして自宅に抵当権をつけたり個人保証を入れていたりする場合は、オーナーでなくなることで個人保証からも解放されます。
子どもに事業承継しても、子どもの与信が足りなかったり個人保証を入れるのが難しかったりすると、承継後も旧オーナーの個人保証を抜けないケースもあることを考えると、大きなメリットです。
新事業への挑戦や引退後の生活
海外では、起業した事業が利益を出すようになったら売却し、売却益でより大きな新事業にチャレンジしたり、または売却益を生活費にして若くして引退したりする起業家も多いです。
M&Aの売却益は、新事業へのチャレンジやアーリーリタイア後の生活資金などに充てることもできます。
事業の売却により、創業者利益とハッピーリタイアが手に入るのはうれしいメリットです。
パン屋のM&Aを実施する際に気をつけるべきポイント3つ
では、パン屋のオーナーがM&Aを行ううえで気をつけたい3つのポイントを、順番に解説していきます。
- 準備は早めに
- 売却事業の強みを明確化する
- 譲れない売却先の条件を明確化する
準備は早めに
子どもや親族に事業を承継する「親族内承継」には、数年単位の時間が必要です。
それに比べれば、M&Aは時間はかかりません。
とは言っても、手続きにはどうしても半年程度はかかります。
特に、会社をできるだけ高く売りたいと思えば、適切な相手を見つける工程に最も時間がかかります。
M&Aの成功のためには譲れない条件を明確化することが必要ですが、その条件を受け入れてくれる相手を探すことが大変なのです。
加えて、相手探しのためには、数期分の決算書や各種税申告書、月次試算表といったその他財務資料など、膨大な数の資料が必要となります。
さらに、買い手候補に決算書などの資料提出の際には、実態と数字をできるだけ一致させるため、過剰な税金対策などをやめて、お金の流れをクリーンにしておく必要もあります。
それ以外にも、オーナーの健康問題や経営問題を抱えている場合は、早めに動かないとそうした問題が急激に悪化することも考えられます。
M&Aを検討している方の中には、「今すぐではないけど、3〜5年後くらいには考えている」という方もいらっしゃるでしょう。
オーナーには時流の先を読んで動くことが必要なため、「3〜5年後くらい」と思ったときから行動するのが正解といえます。
売却事業の強みを明確化する
買い手がM&Aを行う理由の一つに、シナジー効果があります。
シナジー効果とは、事業や企業を統合することで、統合前よりもその価値が増すことを指します。
そのため、パン屋のM&Aにあたっては、売却する事業の強みはどこで、逆にどの弱みを補強すれば今より成長できるのかを明確化しておきましょう。
M&Aにより、自社の強みが買い手にメリットを与え、さらに自社の弱みを買い手が補強することができる組み合わせであれば、買い手がシナジー効果を得られるため、事業を高く売ることも可能です。
シナジー効果が生まれる組み合わせを探すこと(マッチング)が、M&Aの成功にとって最も必要なことといえるでしょう。
譲れない売却先の条件を明確化する
一般的に、M&Aにおける良い買い手とは、将来のビジョンと、その実現のためにどんな会社にM&Aを行うかを明確化できている会社です。
さらに、買収資金を確実に調達できるか、M&A後に売り手企業に参画させる人員を確保できるか、という点もポイントです。
買い手を選ぶためには、譲れない売却先の条件を明確化し、優先順位をつけて整理することが重要です。
最初に、なぜM&Aを行うのか、目的を明確化しましょう。それによって、譲れない条件も変わってきます。
それから、売却金額や受取方法、従業員の処遇など、譲る点と譲れない点を決定し、買い手との交渉に臨みましょう。
パン屋のM&Aを相談するなら
ここまで述べてきた「準備は早めに」「事業の強みを明らかに」「譲れない売却先の条件を明らかに」といった3つのポイントに気をつけながら、パン屋のオーナーが独力でM&Aを行うのはなかなか難しいです。
まず、「準備を早めに」といっても、何を行っていいか分からない人がほとんどではないでしょうか。
そのため、まずは専門家であるM&Aアドバイザーに相談してみることをおすすめします。
M&Aアドバイザーは、税務・法務・会計など多岐にわたる専門知識と経験をもとに、M&Aの最初から最後まで、必要とされる業務をすべてサポートしてくれます。
特に、パン屋のM&Aに精通しているM&Aアドバイザーに依頼すれば、業界に特化したアドバイスや豊富なM&A事例、さらにはアドバイザー独自のコネクションをもとに買い手候補を紹介してくれます。
M&Aの成功には秘密厳守が欠かせず、不動産売買のようなネットワークやマーケットもないため、アドバイザーに専任依頼することで、秘密を保持したまま丁寧に相手を探すことが必要です。
最近は、着手金がいらない成果報酬型のM&Aアドバイザーが増えてきており、M&Aが確定するまでインターネット上で無料で相談できるため、利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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