
事業承継で生じる会計処理は、承継を行う際に避けては通れないことです。
しかし事業承継自体が人生で何度も経験することではないので、どのように処理すればいいのか分からない方は多いのではないでしょうか。
そもそも事業承継の形も、現代では子どもが引き継ぐ親族内承継が減って、社外の第三者に引き継ぐ親族外承継が増えています。
親から事業を引き継いだという経営者の方は、もし社外の第三者に引き継ぐとしたら自分が承継したときとは会計処理も異なるわけです。
そこで本記事では、事業承継の会計処理についてまとめてみました。
目次
事業承継には複数パターンがある
事業承継とは
事業承継とは、現経営者の引退や死亡などを機に、事業を次の経営者に引き継ぐことです。
要するに「俺、地元に戻って親の跡を継ぐよ」というのは、堅い表現に言い換えると「親が経営する会社の事業を息子である自分が承継する」ということです。
そう考えると事業承継とは特段めずらしいことではありません。
小学校から大学までの同級生の中に、親がお店を経営していたり、農業を営んでいたりしていた人はいなかったでしょうか。
彼ら彼女らが親の跡を継ぐ予定であると聞いたら、「事業承継をするんだな」と思っていただいて問題ありません。
このように子どもや孫などの親族が事業承継することを「親族内承継」と呼びます。
一方で、親族以外の人間が事業を承継するケースもあります。
これを「親族外承継」と呼びます。
親族外承継で引き継ぐ役になるのは、従業員や社外の第三者です。
増加するM&Aによる事業承継
事業承継で後継者となる人物は親族、従業員、社外の第三者、と一見、幅広い候補の中から自由に選択できるように思えます。
しかし実際のところ、親族による事業承継は年々減少し、逆に社外の第三者による事業承継が増加しています。
親族内承継が減少している理由として、少子高齢化で子どもや孫のいる経営者が少なかったり、子どもや孫がいても既に別の仕事についていたり、跡を継ぐ意思がなかったりする場合が多いからです。
昔の日本では子どもが親の跡を継ぐというのが普通のことのように考えられていましたが、現代では子ども自身が望む道を歩むことが一般的になってきました。
経営者である親自身も、子どもには無理に継いでもらうより好きな道を進んで欲しいと思う方が増えています。
しかし今まで先祖代々続いていた事業や、多くの顧客や取引先に支えられてきた事業を運営していると、「自分の代で廃業するわけにはいかない」という思いに駆られる経営者の方がいるのも事実です。
そこで注目が集まっているのが社外の第三者を後継者とする、M&Aによる事業承継です。
会社単位、もしくは事業単位で他社に買収されたり、会社を合併したりすることで、別の会社に経営権を移行します。
M&Aによる事業承継のメリットとして、
- 後継者問題の解決
- 事業の継続
- 事業譲渡や株式譲渡における現金の獲得
- 事業の発展の可能性
- 従業員の待遇改善
などが挙げられます。
後継者が周囲に見つからず廃業を選ぶしかない状況でも、M&Aによる事業承継を行うことで、関係者への影響を少なく、また事業を発展させる可能性を高めることができるのです。
日本では団塊世代の大量リタイアのタイミングで、多くの中小企業が後継者問題を抱えることが分かっています。
そのような中小企業の課題を解決する方法としてM&Aに注目が集まっているのです。
さらに、事業自体には拡大できる可能性があるものの、会社の規模やリソースの問題で諦めている経営者が、他社に事業承継することで事業を発展させる場合もあります。
どちらにせよ、M&Aによる事業承継は可能性に満ち溢れています。
事業承継は種類によって方法や会計処理が異なる
事業承継は引き継ぐ相手によって種類が異なることがお分かりいただけたでしょうか。
種類が違うということは、会計処理も異なることが簡単に予想できますよね。
そのため事業承継を行う前に会計処理の方法を知って、実施可能かどうかの確認と、手続きが面倒な場合は覚悟しておくことをおすすめします。
次の章では、子どもに事業承継をする場合の会計処理と、M&Aを行って他社に事業承継をする場合の会計処理について説明したいと思います。
事業承継の会計処理について
子どもに事業承継をする場合の会計処理
経営者である親がなくなり、子どもが事業を引き継ぐとします。
親子で引き継ぐ場合は資産と負債を丸ごと相続することになります。
資産の帳簿価額は、
単位:千円
科目 |
資産額 |
預金 |
2,000 |
売掛金 |
500 |
棚卸資産 |
1,500 |
土地 |
10,000 |
建物 |
5,000 |
機械装置 |
8,000 |
特許権 |
500 |
商標権 |
200 |
総額 |
27,700 |
とします。
また、負債の帳簿価額は、
単位:千円
科目 |
負債額 |
買掛金 |
300 |
未払金 |
200 |
総額 |
500 |
とします。
このとき、資産と負債の差額27,200千円を事業主借として扱います。
固定資産の減価償却については、そのときの帳簿価額に応じて計算をし直す必要があります。
また個人事業主ですので確定申告の必要があります。
事業承継による所得は事業所得、もし親が経営者のころに従業員として働いていたのであれば、そのころの所得は給与所得として別に扱う必要があります。
その他、承継する間柄が親子関係であることから相続税の申告も必要です。
M&A(事業売却)を行い他社に事業承継をする場合の会計処理
M&Aによって事業承継を行う場合、承継する企業と承継される企業ではお金の授受が発生します。
今回は事業売却のケースを例に、事業承継の会計処理を説明したいと思います。
事業売却では受け継ぐ内容について、双方協議の上で細かく範囲を決めることができます。
そのため資産だけ受け継ぎ、負債は受け継がないということができます。
説明の簡素化のため、今回は資産だけ受け継ぐケースで見ていきましょう。
仮に次のような簿価、時価の資産を受け継ぐとします。
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
棚卸資産 |
10,000 |
10,000 |
0 |
800 |
土地 |
90,000 |
120,000 |
30,000 |
9,600 |
建物 |
5,000 |
3,000 |
-2,000 |
240 |
機械装置 |
10,000 |
8,000 |
-2,000 |
640 |
特許権 |
500 |
10,000 |
9,500 |
800 |
商標権 |
200 |
5,000 |
4,800 |
400 |
総額 |
115,700 |
156,000 |
64,200 |
12,480 |
承継する事業の時価総額は156,000千円でしたが、承継後、より発展してより大きなリターンを獲得できる見込みがあります。
その可能性を加味して、事業の対価を200,000千円にすることに決定したとします。
すると、
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
資産総額 |
115,700 |
156,000 |
64,200 |
12,480 |
事業対価 |
200,000 |
|||
のれん |
44,000 |
3,520 |
となり、資産の時価総額との差額44,000千円がのれんとして計上されます。
ちなみに、のれんとは事業承継が行われる際に、時価総額よりも高い金額で売却された場合の差額のことを指します。
また、同じケースでも低い金額で売却された場合の差額のことを負ののれんと呼びます。
将来の収益性を見越して価値が算定されるため、のれんが大きいほど将来への期待値が大きいと言えます。
よって事業承継によって経営者が得られる利益は、
事業対価200,000千円-簿価115,700千円=利益84,300千円
となります。
今回の例では負債の引継ぎを行わなかったため、事業承継によって得た利益からその返済を行います。
仮に負債が利益よりも高かった場合は赤字になってしまいますが、利益が負債よりもはるかに高ければ、経営者が引退した後の生活にあてることができ家計が潤うでしょう。
もし事業承継によってより多くのお金を手にしたいと考えているのであれば、今後その事業のニーズが高まるというタイミングで承継すると、のれんが多くなり多額の資金を得る可能性が高まります。
事業承継の会計処理における注意点とは
事業承継の会計処理における注意点について説明したいと思います。
承継相手によって異なる
まずは事業承継の相手によって会計処理の方法が異なるということです。
親族内承継の場合は相続の面が色濃く、親族外承継の場合はM&Aの面が色濃く会計処理に現れます。
承継する相手によって適切な会計処理を行う必要があります。
承継する内容や範囲によって科目が異なる
事業承継ではどこまで、何を承継するかによって項目が異なります。
資産や負債を漏れなく把握できているか注意しましょう。
もし本来事業承継によって引き継いでいるのにも関わらず、会計処理で計上していない項目があると後々面倒です。
税金の種類も異なる
承継する内容や範囲によって科目が異なれば、自ずと掛かる税金の種類も異なります。
場合によっては税金の対象にならないものもあり、どれが何の税金の対象になるのか、きちんと確認しなくてはいけません。
事業承継の会計処理に困ったらプロに相談を
事業承継の会計処理について説明してきましたが、正直「面倒だな」「ややこしいな」と思いませんでしたか。
普段の会社経営においても慣れないと面倒な会計処理です。
やったことのない事業承継ではややこしさに拍車が掛かっても何らおかしくはありません。
そのようなときは会計処理のプロである公認会計士や税理士の先生に相談をしましょう。
公認会計士の力を借りれば、適切な方法で漏れなく会計処理を行うことができます。
一度間違った帳簿をつけてしまうと、後々面倒なことになってしまいますし、税金について漏れがあれば税務署が怖いですね。
特に事業承継の場合の会計処理について詳しい公認会計士や税理士の先生に相談するのがおすすめです。
そのような公認会計士や税理士が所属している会計事務所があるので、最後に紹介をして本記事を終わりにしたいと思います。
渋谷にある会計事務所M&Aコンサルティング社は、多くの公認会計士や税理士が所属しています。
他の会計事務所との大きな違いが、M&Aによる事業承継に詳しく、会計処理だけでなく事業承継のサポートも対応可能な点です。
とくに事業価値を向上させてから承継する「スケースM&A」という方法で、事業承継後に手元に残るお金を最大化することができます。
手塩に掛けた事業は実の子どものように愛着のあるものです。
それを承継するとなれば、大切にしてくれる相手がいいですよね。
そのような相手を経営者ひとりで無数の候補から探し出すのは大変ですが、M&Aコンサルティング社は独自のネットワークによって、条件の合う相手を見つけてきてくれます。
会計事務所に相談することで経営者の方の労力を少なくしつつ、多額のお金が手元に残る、まさに一石二鳥といえるのではないでしょうか。
気になる費用はM&Aが成立した際に成果報酬が請求されるだけですので、お金のことは心配せずいくらでも相談ができます。
電話やメールでは匿名での相談が可能なので、「自分の情報は教えたくない。けれど事業承継について、会計処理について相談したい」という場合でも気軽に相談できます。
事業承継や会計処理に不安を持っているのであれば、M&Aコンサルティング社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
きっとあなたの力になってくれるはずです。
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