
事業売却の会計処理の方法は把握されていますか。
大きな金額が動く事業売却ですので、間違って会計処理したらと考えると恐ろしいですよね。
譲渡の利益をとしていくらを計上するのか、税金はどのような扱いになるのか、きちんと事業売却の会計処理について知ってから売却を実行に移したいですね。
そこで今回は事業売却における会計処理についてまとめてみました。
目次
事業売却では会計処理が生じます
事業売却とは、ある会社の事業を別の会社に売却することです。
売却することで売り手側の企業は赤字事業を手放せたり、残った事業に集中したりすることが可能で、買い手企業は商圏や利益の拡大を狙うことができます。
そして事業売却では、買い手企業は売り手企業にお金を払って事業を買い取るので、両社ともに会計処理が生じます。
経営者の方や経理担当者の方はご存知でしょうが、企業の会計処理は企業会計原則をもとに処理されますので、事業売却の場合もこの企業会計原則に則って会計処理を行わなければいけません。
企業会計原則は「一般原則」「損益計算書原則」「賃借対照表原則」の3つから成り立っています。
事業売却では、売却する資産と負債を、原則、時価評価して貸借対照表に記載しますので、企業会計原則のうち賃借対照表原則が大いに関わってきます。
賃借対照表は企業の財政状態を明らかにし、株主や債権者などの関係者に公開するものですので、正しく作成する必要があります。
その作成をする上での基本の考え方、方針、ルールをまとめたものが賃借対照表原則です。
もちろん一般原則と損益計算書原則も軽視はできません。
事業売却では企業会計原則全般に則って会計処理を行いましょう。
では企業会計原則に従って事情売却の会計処理を行うとして、具体的にどのように処理するのでしょうか。
企業会計原則を見ただけでは分かりづらいと思いますので、具体的なケースに落とし込んで説明していきたいと思います。
事業売却の会計処理について
事業売却では資産や負債などの売却範囲を限定することができます。
この資産と負債は受け継ぎ、この資産と負債は受け継がない、というように細かく指定ができます。
そのため、売却する側の企業の売却希望が強く、逆に買い取る側の企業は特にその事業を買い取る必要性に迫られていない場合、買い取る側は有利な立場となります。
極端に言ってしまえば、資産は受け取るが、買い取ることでマイナスにしかならない負債は一切受け取らない、ということもできてしまうのです。
そこで、今回は説明を簡単にするために、売却範囲に負債が含まれない場合を例に説明したいと思います。
もし負債が生じるとしても負債分の金額を追加して計算しましょう。
今回は売却する事業の評価によって3つのケースに分けて説明したいと思います。
資産の時価総額で売却する場合
まず一番シンプルな形として、売却する資産の時価総額を売却価格とする場合について見ていきましょう。
例えばこのようなケースです。
A社はある事業を運営しています。
しかし収支はとんとんくらいであり、市場は競合も多く、今後つづけていても大きなシェア拡大は望めないことが分かっています。
一方、もう1つの事業では競合との差別化もできており年々利益が拡大しています。
順調な事業にすべてのリソースを注いだほうが良いと判断し、A社は順調ではないほうの事業を売却することにしました。
売却先として候補にあがったのは、その事業の業界で大きなシェアを占めるB社でした。
しかしB社は、もっと利益率の良い別の事業に力を注いでおり、今すぐその事業を拡大していこうとする必要性には駆られていませんでした。
今注力している事業が落ち着いてきた後に、その事業を強化する予定も現段階ではありません。
現状維持でも問題のない状況です。
そこで両社が協議した結果、負債は一切引き継がず、資産の時価と同額で売却することになりました。
このとき売却される資産の簿価、時価は以下の通りになるとします。
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
棚卸資産 |
13,000 |
13,000 |
0 |
1,040 |
土地 |
150,000 |
180,000 |
30,000 |
14,400 |
建物 |
30,000 |
25,000 |
-5,000 |
2,000 |
機械装置 |
50,000 |
40,000 |
-10,000 |
3,200 |
特許権 |
600 |
40,000 |
39,400 |
3,200 |
商標権 |
200 |
10,000 |
9,800 |
800 |
総額 |
243,800 |
308,000 |
64,200 |
24,640 |
事業売却を行った際に得たお金から簿価を引いた差額がプラスであった場合は、その差額を事業譲渡益と言い、逆に差額がマイナスになっている場合は事業譲渡損といいます。
このケースではプラスになっているので、事業譲渡益が発生しています。
つまり、売却する側の企業は時価総額の308,000千円で事業売却し、簿価を差し引いた64,200千円が譲渡益になります。
売却される側の企業は時価総額が売却価格ですので、売却する側の企業に308,000千円を対価として支払います。
さらに、この売却価格は消費税の対象となるため24,640千円が税金として掛かり、売却される側の企業が売却する側の企業に対価にプラスして税金分も支払います。
税金は売却する側の企業が納めます。
売却される側の企業の支払金額:
332,640千円(=売却対価308,000千円+税金24,640千円)
売却する側の企業の譲渡益
64,200千円(=支払金額332,640千円-簿価243,800千円-税金24,640千円)
のれんが発生し売却価格が高くなる場合
先ほどのケースでは、売却事業の時価をそのまま対価としていました。
しかし売却する事業に将来性がある場合は、後々大きなリターンを生み出し、時価よりも価値が高いと評価されることがあります。
時価よりも高い金額で売却が行われるとき、時価との売却価格の差額を「のれん」と呼びます。
なおのれんは消費税、減価償却、減損処理の対象になりますので、買い手企業の支払金額や会計処理において影響を与えます。
さきほどのケースではB社が売却事業に関して現状重きを置いていない状況での事業売却でした。
しかしこの事業が今後ニーズが高まることが予想されており、B社も積極的に事業を拡大していくタイミングであったとすれば、売却事業の将来性を含めた評価が行われるでしょう。
先ほどのケースをのれんが生じる場合にして見ていきます。
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
棚卸資産 |
13,000 |
13,000 |
0 |
1,040 |
土地 |
150,000 |
180,000 |
30,000 |
14,400 |
建物 |
30,000 |
25,000 |
-5,000 |
2,000 |
機械装置 |
50,000 |
40,000 |
-10,000 |
3,200 |
特許権 |
600 |
40,000 |
39,400 |
3,200 |
商標権 |
200 |
10,000 |
9,800 |
800 |
総額 |
243,800 |
308,000 |
64,200 |
24,640 |
まず基本の資産評価、計算は最初のケースと同様になります。
売却する資産の時価は308,000千円ですが、将来的に大きなリターンが望めるとして売却価格を600,000千円としました。
この場合のれんは
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
資産総額 |
243,800 |
308,000 |
64,200 |
24,640 |
売却価格 |
600,000 |
|||
のれん |
292,000 |
23,360 |
となります。
売却される側の企業の支払金額:
648,000千円(=資産時価総額308,000千円+資産時価総額に掛かる税金24,640千円+のれん292,000千円+のれんに掛かる消費税23,360千円)
売却する側の企業の譲渡益
356,200千円(=支払金額648,000千円-簿価243,800千円-資産時価総額に掛かる税金24,640千円-のれんに掛かる消費税23,360千円)
また、のれんを10年償却とした場合、売却される側の企業は毎年のれん償却費として29,200千円(=のれん292,000千円 ÷ 10年)を10年間計上します。
負ののれんが発生する場合
時価と売却価格にプラスの差額があればのれんが発生しますが、逆にマイナスの差額が発生した場合は負ののれんが生じます。
1番目のケースを負ののれんが生じる場合にして見ていきましょう。
例えばA社ではずっと売却事業において赤字になっており、仮にB社に売却してもB社のスキームに合わせて運営方法を修正する必要があり、直接的に利益を得られるようになるまでに時間を要することが予想されています。
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
棚卸資産 |
13,000 |
13,000 |
0 |
1,040 |
土地 |
150,000 |
180,000 |
30,000 |
14,400 |
建物 |
30,000 |
25,000 |
-5,000 |
2,000 |
機械装置 |
50,000 |
40,000 |
-10,000 |
3,200 |
特許権 |
600 |
40,000 |
39,400 |
3,200 |
商標権 |
200 |
10,000 |
9,800 |
800 |
総額 |
243,800 |
308,000 |
64,200 |
24,640 |
基本の資産評価、計算は上記のケースと同様になります。
売却する資産の時価総額は308,000千円ですが、赤字になることを考えて対価を280,000千円と定めました。
この場合負ののれんは、
単位:千円
科目 |
簿価 |
時価 |
損益 |
消費税(8%) |
資産総額 |
243,800 |
308,000 |
64,200 |
24,640 |
売却価格 |
280,000 |
|||
のれん |
-28,000 |
-2,240 |
となります。
売却される側の企業の支払金額:
302,400千円(=資産時価総額308,000千円+資産時価総額に掛かる税金24,640千円-のれん28,000千円-のれんに掛かる消費税2,240千円)
売却する側の企業の譲渡益
36,200千円(=支払金額302,400千円-簿価243,800千円-税金22,400千円)
このとき、買い手企業は負ののれんが生じたことによって、28,000千円の利益を得ていると捉えることができます。
この負ののれんによって生じた利益は特別利益として会計処理されます。
発生したのれんの扱われ方
なお、事業売却でのれんが生じた場合に、会計上と税務上でそれぞれで扱いが異なります。
会計上での扱い
のれんは会計上では「資産」として扱われます。
現在施行中である日本の会計基準では、資産として計上されたのれんは20年以内の期間内に均等に償却する必要があります。
例えば、のれんが20億円だった場合、20年間で償却するのであれば、毎年1億円を減らしていきます。
また、負ののれんが発生した場合は「利益」として扱われ、特別利益として区分されます。
以前はのれんと同じように規則的な償却がされていました。
しかし、国際的な会計基準では、負ののれんは発生原因が特定できないものを含むため、算定上の差額として利益認識することとしています。
そこで日本も、国際財務報告基準の観点から、従来の取扱いが見直されました。
税務上での扱い
もともと税務上では、のれんに該当するものがなく、2006年の税制改正以降は、のれんが「資産調整勘定」、負ののれんが「差額負債調整勘定」として扱われ、税務上の処理が可能になりました。
基本的には差額として扱いますが、税務上でそれぞれを算出する場合には、負債に注意しなければなりません。
事業売却をする際に、個別資産負債が会計と税務でも一定の場合は、のれんと資産調整勘定と差額負債調整勘定は同じ金額になります。
しかし、負債の場合は会計と税務が一致しないケーズが多いため、発生したのれん金額と同じにならない可能性があるので、注意して算出が必要です。
それぞれ5年間にわたり均等償却され、資金調整勘定は損金、差額負債調整勘定は益金に算入する決まりになっています。
事業売却の会計処理におけるポイント
事業売却の会計処理の方法が分かれば、実際に売却したときにどうすれば損になるのか、得になるのかというのをある程度シミュレーションすることができますね。
もし事業売却の目的がお金を得ることであれば、負ののれんが生じるような事業売却はあまり得とは言えません。
場合によっては、譲渡損が生じる可能性もあります。
逆にのれんが生じて大きな譲渡益が生じる場合は、事業売却をする旨みがあると言えます。
事業売却では会計処理を行う段階になってから処理の方法を知るのではなく、事業売却の検討段階ですでに把握しておくことがポイントです。
事業売却の会計処理に困ったらプロに相談を
もし社内のみで事業売却の会計処理を行うことに不安があるのなら、会計のプロである公認会計士に相談しましょう。
特に事業売却についても、会計処理についても相談できる会計事務所だったら相談しやすいですよね。
M&Aコンサルティング社は事業売却のサポートも行っている会計事務所ですので、どちらについても相談することができます。
売却前に事業価値を最大化させる「スケールM&A」を強みにしていますので、M&Aコンサルティング社に相談することで、譲渡益の多いのれんが生じる場合の事業売却も夢ではありません。
相談費用や着手金は必要なく、費用は売却が成立したときのみ成果報酬だけです。
その上、社名や名前を名乗らずに相談ができる匿名相談が可能ですので、費用的にも心理的にも相談がしやすいと思います。
事業売却の支援では条件に合った売却先を探すことから成立後の手続きまでトータルにサポートしてくれます。
自力で売却先を探し出すのは大変な労力になりますので、その点で言ってもM&Aコンサルティング社に相談すると経営者の方の負担が軽くなるのでおすすめです。
会計についても事業売却についても詳しいプロですから、事業売却の会計処理で困ったらM&Aコンサルティング社に問い合わせてみてはいかがでしょうか。
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